第2話

秘密のノート②
8,745
2021/04/16 04:00
ハラハラしながら、河内くんの後ろをついて行く。
どこかに到着するまで、ノートの交換をするつもりはないらしい。
葉山 日菜
葉山 日菜
(中身、絶対に見られた……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(どうしよう)
一瞬で脳裏のうりぎるのは、小学生時代の自分。
小学生男子
小学生男子
こんなもんいてんの? 女の妄想、気持ちわりー
小学生の日菜
小学生の日菜
やめて、返して! お願い!
クラスメイトの男子にノートを取り上げられて、たらい回しにされ、泣いている自分。
あの子は、しばらくして親の転勤で転校していったけれど、
一度った心の深い傷は、治ることがなかった。
河内くんの足が向かうのは、屋上へと続く階段。
葉山 日菜
葉山 日菜
(屋上って、入れるんだ。知らなかった)
葉山 日菜
葉山 日菜
(屋上でふたりきりになるとか、漫画みたい。実際は、どうなってるんだろう。写真を撮って、資料にしたい……)
そこまで考えて、頭をブンブンと振る。
葉山 日菜
葉山 日菜
(って、今はそんなことを考えている場合じゃないでしょ!)
河内くんが、屋上の扉を開ける。
強く風が吹き抜けて、髪の毛を横一直線に揺らした。
屋上には、他に誰もいない。
河内 恭介
河内 恭介
屋上って、案外来る奴、少ないんだよ
河内 恭介
河内 恭介
人がいないところで話した方が、いいと思って
ビクッと体が強張こわばる。
河内 恭介
河内 恭介
これ、葉山のだよな?
スッと差し出されたのは、B5サイズの大学ノート。

私が今持っているものと、同じデザインの……。
葉山 日菜
葉山 日菜
……見たの?
河内 恭介
河内 恭介
うん、見た
葉山 日菜
葉山 日菜
今までの生活が、ガラガラと崩れていくような音が、そのイメージと共に、脳内で響いている。
葉山 日菜
葉山 日菜
(終わった……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(絶対にバカにされる。あの時と同じ)
葉山 日菜
葉山 日菜
(だからずっと、誰にも秘密にしてきたのに)
ぎゅっとかたく目を閉じて、差し出されたノートをつかむ。
思いつく限り、最悪の想像をした。

だけど。
河内 恭介
河内 恭介
すごいな、葉山
葉山 日菜
葉山 日菜
……?
思いもよらない言葉に、まぶたをそっと開く。
葉山 日菜
葉山 日菜
(今、なんて?)
河内 恭介
河内 恭介
これ、葉山が描いたんだろ? すごいな!
目の前にいるのは、羨望せんぼうと喜びが合わさったような、キラキラした笑顔。
ノートの中身。

それは、私が自分で描いている少女漫画。
昔から大好きだった、私だけの妄想の世界。
小学生の頃に、ひとりの男子にバカにされたことをきっかけに、これは誰にも言えない秘密になっていた。
葉山 日菜
葉山 日菜
え……、あの、バカにしないの? 私、少女漫画描いてるんだよ?
河内 恭介
河内 恭介
なんで? こんなの描けるなんて、すごいじゃん。絵も上手いし、話だっておもしろい
葉山 日菜
葉山 日菜
すごい……?
葉山 日菜
葉山 日菜
(初めて言われた)
これは、人に見せるものじゃない。
私がひとりで吐き出して終わるだけの、密かな行為だったのに。

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