第11話

転校生③
3,969
2021/06/18 04:00
第三者の声が、私と河内くんの会話をさえぎる。
ふたりで声の方に顔を向けると、そこにいたのは学ランの男子。
葉山 日菜
葉山 日菜
藤間くん……!?
顔を見ただけでビクッと身を引いて、拒否反応をしてしまった私の体が、河内くんにぶつかる。
葉山 日菜
葉山 日菜
どうして、ここに
藤間 修
藤間 修
最寄り駅だし
葉山 日菜
葉山 日菜
(そうだ、朝近所でぶつかったってことは、あの辺に越してきたってことなんだ)
藤間 修
藤間 修
そいつ誰?
河内 恭介
河内 恭介
河内恭介。よろしく。俺も同じクラスだから、よかったら覚えといてよ
始終不機嫌顔の藤間くんとは違って、河内くんはちゃんと笑顔で自己紹介をする。
藤間 修
藤間 修
ふーん。付き合ってんの?
葉山 日菜
葉山 日菜
違うけど……
ハッと気づく。

河内くんとこの駅で会うのは、他に知り合いが誰もいないから。
藤間くんに知られたら、河内くんに迷惑をかけてしまう。
どうしようと焦っていると、それを察してくれたのか、河内くんが私の肩を叩いた。
河内 恭介
河内 恭介
葉山は、俺の忘れ物を届けてくれただけだよ。な?
葉山 日菜
葉山 日菜
! うん、そう
藤間 修
藤間 修
じゃあ、もう用は済んだんだろ。こいつ、借りるから
葉山 日菜
葉山 日菜
!?
藤間くんの指差しは、まっすぐに私にだけ向けられている。
藤間 修
藤間 修
この辺久しぶりだから、案内しろよ、日菜
葉山 日菜
葉山 日菜
私が……!?
人にものを頼む態度としては大分おかしいし、素直な気持ちで嫌すぎる。
河内 恭介
河内 恭介
その言い方は、どうかと思うけど
藤間 修
藤間 修
は?
河内 恭介
河内 恭介
嫌がる女の子に、その態度はないだろ
河内くんが、私を自分の背中に隠してかばってくれるけど、このままじゃ彼にまで迷惑をかけてしまう。
葉山 日菜
葉山 日菜
河内くん、大丈夫。ありがとう
河内 恭介
河内 恭介
葉山
葉山 日菜
葉山 日菜
また明日、学校で
河内くんは、まだ何か言いたそうにはしていたけど、最後にひと言、「気をつけて」とだけ言ってくれた。
そして、気の乗らないふたりの帰り道が始まった。
藤間 修
藤間 修
お前、あいつのこと好きだろ
葉山 日菜
葉山 日菜
っ!?
驚いて、吹き出しそうになる。
葉山 日菜
葉山 日菜
な、なに言っ……
藤間 修
藤間 修
お前みたいな奴とは、レベルが合わなそうだけどな
葉山 日菜
葉山 日菜
……そんなの、言われなくても分かるし
河内くんは、遠い人。

あの日、ノートが入れ違わなければ、きっとずっと接点なんてなかった。
彼に釣り合わないだなんて、私が一番知っている。
葉山 日菜
葉山 日菜
あの、この辺を案内って言っても、小学生の頃と特に変わってないよ
藤間 修
藤間 修
あっそ
葉山 日菜
葉山 日菜
……
案内をしろと言った割には、興味がなさそうな返答に、ただため息が漏れてしまう。
藤間くんは歩くのが速くて、ついていくのが大変。
藤間 修
藤間 修
お前、まだ漫画いてんの
葉山 日菜
葉山 日菜
も、もう描いてないよ
自作少女漫画が入っているかばんを持つ手に、ギュッと力が入る。
葉山 日菜
葉山 日菜
(どうして急に)
その後は、何も会話が続かなくて、曲がり角でそのまま別れた。
葉山 日菜
葉山 日菜
(ノート、結局見てもらえなかったな)
夜、自室で机に向かいながら、ノートの最後のページを開いて、ペンを握った。
『絆創膏を貼ってもらった』

『熱を測られると、体調が悪くなくても熱い』
そして。
『曲がり角でぶつかっても恋は始まらない』

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