第三者の声が、私と河内くんの会話を遮る。
ふたりで声の方に顔を向けると、そこにいたのは学ランの男子。
顔を見ただけでビクッと身を引いて、拒否反応をしてしまった私の体が、河内くんにぶつかる。
始終不機嫌顔の藤間くんとは違って、河内くんはちゃんと笑顔で自己紹介をする。
ハッと気づく。
河内くんとこの駅で会うのは、他に知り合いが誰もいないから。
藤間くんに知られたら、河内くんに迷惑をかけてしまう。
どうしようと焦っていると、それを察してくれたのか、河内くんが私の肩を叩いた。
藤間くんの指差しは、まっすぐに私にだけ向けられている。
人にものを頼む態度としては大分おかしいし、素直な気持ちで嫌すぎる。
河内くんが、私を自分の背中に隠してかばってくれるけど、このままじゃ彼にまで迷惑をかけてしまう。
河内くんは、まだ何か言いたそうにはしていたけど、最後にひと言、「気をつけて」とだけ言ってくれた。
*
そして、気の乗らないふたりの帰り道が始まった。
驚いて、吹き出しそうになる。
河内くんは、遠い人。
あの日、ノートが入れ違わなければ、きっとずっと接点なんてなかった。
彼に釣り合わないだなんて、私が一番知っている。
案内をしろと言った割には、興味がなさそうな返答に、ただため息が漏れてしまう。
藤間くんは歩くのが速くて、ついていくのが大変。
自作少女漫画が入っているかばんを持つ手に、ギュッと力が入る。
その後は、何も会話が続かなくて、曲がり角でそのまま別れた。
*
夜、自室で机に向かいながら、ノートの最後のページを開いて、ペンを握った。
『絆創膏を貼ってもらった』
『熱を測られると、体調が悪くなくても熱い』
そして。
『曲がり角でぶつかっても恋は始まらない』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!