第3話

秘密のノート③
7,484
2021/04/23 04:00
河内 恭介
河内 恭介
これって、話の続きは?
河内くんが読んだ私のノートは、半端なところで物語が止まっているものだった。
葉山 日菜
葉山 日菜
この先は、まだけてないの。ちょっと思いつかなくて……
葉山 日菜
葉山 日菜
……恥ずかしいんだけど、私、恋愛経験みたいのがあまりなくて
葉山 日菜
葉山 日菜
だから、どうすればドキドキするのかとか、そういうのを描くのが難しいの
もちろん、物語をつむぐには、経験が全てではないことも分かっている。
不思議な体験をしなくても、SFを描ける作家や、
現代日本に生きていても、ファンタジーを描ける作家がいるように。

だけど私には、それが難しいらしい。
どうなるのかハラハラしてしまったけど、河内くんの反応が予想外だったおかげで、助かった。
葉山 日菜
葉山 日菜
(お世辞だろうけど、私の漫画が否定されなかった……。嬉しい)
だからと言って、今さら他の人にも打ち明けられるようになるわけではないけど、
首の皮が一枚繋がったような気分。
葉山 日菜
葉山 日菜
あ、これ、河内くんのノート。間違えちゃって、ごめんなさい。それじゃあ、これで
間違えていたものを交換。

それで、終わる。
……はずだった。
河内 恭介
河内 恭介
待った
葉山 日菜
葉山 日菜
え?
河内 恭介
河内 恭介
その話、続きが描けたら、また読ませてくれない?
葉山 日菜
葉山 日菜
でも、続きは思いつかなくて……
河内 恭介
河内 恭介
だったら、協力する
葉山 日菜
葉山 日菜
……はい?
河内 恭介
河内 恭介
俺が、少女漫画みたいな体験させるから
がっちりと両手をつかまれる。

ノートがバサッと地面に落ちて、コマ割りされた自分の絵があらわになった。
葉山 日菜
葉山 日菜
…………え?
教室に戻って、人よりも少し遅れて弁当箱を広げ、私が戻ってくるのを待っていてくれた沙耶ちゃんと、向かい合わせに座る。
葉山 日菜
葉山 日菜
はあ……
沙耶
沙耶
もー、さっきからため息多すぎ。河内くんに、なんか言われたの?
葉山 日菜
葉山 日菜
う、ううん。えーと、落し物を拾ってくれただけなの
結論から言うと、……断れなかった。
ただでさえ、人見知り。

男友達もひとりもいない。
そんな私が、初めて話した男子に手を握られ、近距離で見つめられる。
その状況にすっかりパニックになって、思わずうなずいてしまった。
葉山 日菜
葉山 日菜
(バカ、私)
少しタイミングをずらして教室に戻ってきた河内くんは、さっさとお昼を済ませて、友達と笑っている。
こげ茶色、茶色、黄色。

河内くんのそばにいる男子の髪色を、ひとりずつ数える。
河内くんは、かろうじて少し黒寄りの茶色。
葉山 日菜
葉山 日菜
(あ、日に当たるとオレンジっぽく透けて、綺麗)
あそこに、制服を正しく着ている人は、ひとりもいない。
私とは、縁のないタイプ。
ジーッと凝視ぎょうしをしすぎたのか、視線に気づいた河内くんが、こちらを見た。
葉山 日菜
葉山 日菜
ニコッと笑われて、思わず顔を伏せてしまった。
葉山 日菜
葉山 日菜
び、びっくりした……!
屋上での会話を思い出す。
葉山 日菜
葉山 日菜
(あの人に、見られちゃったんだよね。ずっと隠してきたのに……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(なんで続きが読みたいなんて言ったんだろう)
葉山 日菜
葉山 日菜
(いくら褒めてくれたって、私が描いてるのは、少女漫画なのに)
葉山 日菜
葉山 日菜
(からかわれてるのかな……)

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