今日はこれから、沙耶ちゃんとふたりでショッピングモールに行く予定をしていたのだけど、
昼過ぎに沙耶ちゃんのママからスマホに電話があって、早く帰りなさいとのことで、
街中でお開きにすることになった。
スマホを取り出して、画面を見つめる。
今日はずっと、頭に引っかかっていることがある。
もし、万が一、本当にそうだったとしても、先に約束をしていたのは沙耶ちゃんだったから、どっちにしろ断ることにはなっていたけど。
トークアプリを開き、河内くんとのメッセージ履歴を見る。
河内くんとメッセージのやり取りをしたこと自体が少ないし、自分から送ったことは一度もない。
指で画面をタップして、深呼吸。
メッセージを送るだけで、息切れがすごい。
メッセージに既読がつく。
と、思ったのも束の間。
スマホから着信音が鳴り響いて、手のひらから落としそうになってしまった。
初めての機械越しの声は、なんだか変な感じがする。
電話が切れた。
*
河内くんは、「いつもの場所」としか言わなかったけれど、私はまっすぐに西口へ向かった。
私たちの秘密の場所は、ここだから。
彼の姿は、まだない。
ベンチに座って、折りたたみミラーを見て、前髪をさわった。
声が聞ければ、それだけで充分だと思っていたのに。
ドキドキ、ソワソワする。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。