❤️side
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もとより俺たちがキスしたりハグしたりしたら喜ぶファンが一定数いることは知ってた。
なんならその人たちを狙った企画をやった事もある。
久しぶりのオフの中、俺は目の前のパソコンに並んだゆまゆた、ゆたやま、という単語を眺めている。
元はエゴサーチをしていただけだった。気づいたら色々なサイトを見つけ、たまたま目に入ったのがこのサイトなのだ。
世間一般で言われる所謂nmmn(ナマモノ)というものは厳重に扱われ、絶対に本人達に届かないように、と昔から暗黙のルールがある。だからこそ、検索避けなどは徹底的にされていた。
が、悲しきかな。この男は運が良かった。ナマモノ、という界隈で使われていた検索避けを偶然ヒットさせてしまったのだ。
自分で調べたくせにうえー、と吐きそうな気分になる。人気ナンバーワンと言ってもあいつを抱く、あいつに抱かれるなんて死んだ方がマシだ。
そもそもメンバーの中だったら、
パッと頭をよぎったあむぎりという男のことをやまとは大層気に入っていた。少し恥ずかしがり屋なところも、小動物のような可愛さも。
プライベートでも動画でも愛おしい、と言葉を漏らすレベルには。
もう略し方は理解してしまった。そっと検索欄にやまあむ、と打ち込んでみる。
先程の初期組と言われる2人の話は50件はあっただろうに、やまあむと調べても15件程度しか見つからない。
作者がいたら泣きながら止めるようなことをしているがこの男は界隈のルールなど知らない。この男を動かしているのは好奇心という感情のみだ。
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初めて読んだやまあむ、というものは所謂浮気系、と言われる話だった。俺があっちゃんを置いて女の子を抱いたり、最終的には別れ話を切り出したあっちゃんを無理やり抱いて監禁するという話。
まずはそこを否定させて欲しい。俺は好きな子には一途なのだ。
それ以上に、
俺に対してずっと健気で、最終的に別れたくなったのに俺から逃げられないあっちゃん。
正直に言うとあっちゃんを俺が襲ってるシーンで勃起した。なんならヌいた。
涙目で俺を見つめてくる顔とか少しくぐもった声をあげるのとか想像容易いし。
一瞬適当にゆうたとひゅうがで想像してみる。最悪だ
ペアがダメなのかと思い、あっちゃんとひゅうがに置き換えようとしてみる、
あっちゃんが俺が以外の誰かに抱かれるとなると急に腹が立ってきた。どうやら俺はやまあむ固定厨、と言われるものらしい。
そのままスクロールをしていくと作者の呟きがあった。
【やまあむ最近動画での絡み少なくない...?オタク辛い】
【けどやまとくん絶対あっちゃんの事好きだもんね...】
その瞬間頭に衝撃がはしる。俺はあっちゃんのことが好きなのか。
よく良く考えればそれもそのはず。好きでもない男でヌけるはずがないしそもそも小説を読もうという気にもならない。まさかこれで自分の思いを自覚するとは。そっと目の前のパソコンを拝む。
俺の思いを気づかせてくれたこの人にお礼と言ってはなんだが動画でも、それ以外でもいっぱいあっちゃんに絡むことを決意する。楽しみにしていてくれよ。
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【え、公式が公式してる】
【恋人じゃんこれは】
【ありがとうありがとう。また指が進む】
俺の恋を気づかせてくれた恩師のサイトを見に行くと嬉しそうな呟きがいっぱいされていた。それもそのはず。ここ数日の動画は
露骨にあっちゃん好きアピールをしたからだ。言葉にして、肩や腰に手を回したり。
最初の方は少しキョドっていたあっちゃんも最近はまた甘えん坊?と微笑むだけだ。元からやまとくんは距離近いよねとファンの子達には言われていたので特に心配もない。あー役得最高
俺の言動と共に比例して増えていくやまあむというタグの数に笑みが止まらない。
語尾に音符でもついてそうなほどルンルンでやまあむの小説を眺める。今日はこれに決めた。
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今日選んだ話は両片思い、と呼ばれる話だった。あっちゃん視点で始まる小説は心をぎゅっと鷲掴みにしてきた。
俺のことが好きだけど想いを封印するために距離をとろうとするあっちゃん。それに気づいて問い詰めて最終的には告白をする俺。そこから告白成立のハッピーエンドだった。
これを読み終えると同時に気づいたことがある。俺、あっちゃんに告白してねぇじゃん。
善は急げというもの、告白することを決意してあっちゃんにLINEを送る。
Noを言わせない文を送ると直ぐに既読がついた。
それと同時に猫の了解!というスタンプが送られてくる。なんだかあっちゃんが使うものは全部可愛くてふっ、と笑ってしまう。
みんなからカッコイイと褒められたコートを着て車に乗り込む。目指すはあむぎり宅だ。
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お邪魔しまーす、と入ると同時に家主から言葉が放たれた。どうやら俺の有無を言わさない文に動画を回していると思っていたらしい。
なんだよも〜と言いながらさらっとお茶を用意してくれる。こういう細かい気遣いができるところも好きだ。
おちゃらけた雰囲気で少し離れた場所に座るあっちゃんが話す。
俺は無言のままあっちゃんへと近づいていく。
少し不安そうにしているあっちゃんの横へと座り手を取る。
俺より小さな白魚のような手を握り真っ直ぐに見つめる。あっちゃんが男女関係なく端正な顔立ちに弱いのは昔から知っている。
目の前の男は少し目線をさ迷わせたあと覚悟を決めたように俺に視線を戻した。
そんなしょうもない嘘ついてどうすんだよ!と顔を真っ赤にしながら言うあっちゃん。夢じゃないよな、
思わず手を握っていた手を腰へとまわし細い体を抱きしめる。
腕の中でえへへ、俺も嬉しいとはにかみながら話す恋人が可愛くて、思わず口にキスを落とす。
優しいキスではなく、貪るようなキスをする。
ぐちゅぐちゅ、といやらしい音を立てながら歯列をなぞり縮こまっている舌を絡みとる。時折上顎をなぞるとビクッと震える腕の中の男が愛おしい。
キスにより蕩けている恋人の口から流れ落ちる唾液がどこか色っぽくてさらに体に熱が溜まっていく。
唾液を乱暴に拭きながらそっと俺の首へと手を伸ばすあつき。その表情は今まで見たことない程官能的で、思わずゴクリと唾を飲み込む。
全やまあむの民に次ぐ。お前らが想像してるより、俺の恋人は、俺のあつきは、
________________ なんというか同担拒否というか、end
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!