第12話

12話
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2023/09/03 01:00
ミコト
ミコト
冬堂さんと連絡がとれないの。これからルリくんの初顔あわせなんで代理でわたしが行く。終わったら事務所に戻る。タクミはM社でポスター撮影よね
タクミ
タクミ
『ああ』
ミコト
ミコト
終わったらまた連絡ちょうだい
タクミ
タクミ
『わかった』
 もう一人のマネジメントスタッフの富岡さんにも連絡をいれてみる。やはり富岡さんも冬堂さんと連絡がつかず困っているようだった。
ミコト
ミコト
(どうしたんだろう、まさか事故とか……)
 背筋がぞっとする。冬堂さんは車で移動している。交通事故とかだったらどうしよう。
 テレビトキオに駆けつけるとロビーにいたルリくんが走り寄ってきた。
ルリ
よかったー! ミコトさん来てくれて!
ミコト
ミコト
じゃあ、行こう!
 わたしはルリくんを連れてスタジオに走った。
 ルリくんの出番は15分くらいなのだが、実際は1時間以上拘束された。それが終わると今度は歌のレッスンに行かせる。
ミコト
ミコト
終わったら今日は直帰して
ルリ
ミコトさん、一人で大丈夫ですか?
ミコト
ミコト
大丈夫、富岡さんもいるし、タクミもいるから
ルリ
はい……
 どことなく不安そうな顔でルリくんはうなずいた。ふわふわの茶髪とまっすぐ見つめてくる目のせいか、ちょっとポメラニアンぽい。
ルリ
冬堂さん、心配ですね
ミコト
ミコト
――大丈夫だよ、案外どこかでうっかり寝てたりするんだよ
 ルリくんを見送ってから、わたしは思いついて、スマホでスケジュールアプリを立ち上げた。このアプリではわたしのスケジュールのほか、冬堂さんやタクミたちのスケジュールも管理されている。
ミコト
ミコト
(もっと早く見ればよかった)
 アプリにはスタッフやタレントたちの今日の予定がシンプルな記号や数字で書き込んである。たとえばわたしなら12ー13T・ラジオ、13T・M社ポスター、14ー18T・麻生スタジオ、19T・サクラTVといったふう。数字は時間、Tはタクミのことだ。
ミコト
ミコト
冬堂さんは――
 冬堂さんのページにもびっしりと予定が書いてある。
 8ー10R・取材、10ー12ST6311、13ー15R・テレビトキオ・終了後麻生スタジオ……。
 これを見ると冬堂さんはちゃんと13時にはR、つまりルリくんとテレビトキオに行く予定になっている。ということは13時から14時の間のST、ここでなにかあったということだけど。
 わたしはタクミに電話した。
ミコト
ミコト
タクミ、STってなにかわかる? 冬堂さん13時から14時ST6311になってる
タクミ
タクミ
『ST?』
 タクミの言葉がとぎれた。しばらくしてから、
タクミ
タクミ
『アルファベットだけなら場所かもしれない。STと言われて思いつくのは池袋のサンシャインタウンだ。前にイベントで行った』
ミコト
ミコト
サンシャインタウン? 確か65階まであるビルだよね……6311って63階の11号室とかかな
 わたしはスマホでもう一画面あけて、サンシャインタウンの63階を検索した。
タクミ
タクミ
『上の方はレストランだ。打ち合わせかもしれない』
ミコト
ミコト
――出た! あ、違う、63階はレストランじゃなくてビジネスフロアになってる。レストランは64階より上
 わたしは63階に入っている会社一覧を読んだ。
ミコト
ミコト
生命保険の会社とかいろいろ。イベントの打ち合わせに行ったのかな……わたし今池袋の近くだから行ってみるよ。タクミもくる?
タクミ
タクミ
『……俺はM社でポスターの撮影中だ』
 タクミはそっけなく返事をした。
ミコト
ミコト
抜けられないの?
タクミ
タクミ
『できるか。セッティングしてもらってんだ』
ミコト
ミコト
……わかるけど、冬堂さんが心配じゃないの?
タクミ
タクミ
『仕事に穴を開けるほうが冬堂を心配させる』
 タクミの答えは早かった。なんの感情も感じられない声にちょっと腹が立つ。
ミコト
ミコト
冷たいんだね。そんなに仕事が大事なの?
タクミ
タクミ
『あたりまえだろ、プロなんだから。おまえも戻れ』
ミコト
ミコト
……ちょっと行ってきたらすぐ戻る。麻生スタジオで会おう
タクミ
タクミ
『おいこら……っ』
 タクミがなにか言い掛けたけど無視して通話を切る。
 わたしは池袋の街にそびえ立つサンシャインタウンを見上げた。
ミコト
ミコト
(冬堂さん……!)

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