温かなモカが喉を通る。
落とした視線を上にあげた時、少年_基、折原さんと目が合った。
一応のこと挨拶だけしておく。
苦笑を浮かべる。
どうやらその呼び名には慣れていないらしい。
思っていたよりずっと謙虚な人柄で少々驚いている。
椅子に掛けていたブレザーと、荷物用籠に入れていたバッグを取ると、席から立った。
代金を優響さんに渡す。
優響さんと林檎さんが微笑む。
その笑顔が嬉しくて、
無彩色の心に色彩が溢れていくようで、
感謝してもしきれない。
くるりと体の向きを変える。
折原さんに笑みを返し、喫茶店を出た。
空はすっかり桔梗色に染まっていた。
そこには星はなく、月も見えない。
私はその空が、
ただの鈍色にしか感じられなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。