第2話

稔の目
10
2018/03/28 14:36
「清花(せいか)、おはよう」
「おはよう」

 17回目の春。同じ高校だが、別のクラスで登校も別々。しかし小学校からの付き合いだから最寄り駅で一緒になる可能性は高い。約束はしていないが出る時間が同じならば、小テストの勉強をしながら共に登校している。
 私達の通っている高校は遠く、最低6時40分の電車に乗らなければ間に合わない。だから春夏秋冬、出たての朝日を拝みながら朝を過ごす。

 晴れている日は好きだ。稔の綺麗な容姿が際立つから。高校になってほんのり染めた髪、部活で色付いた肌、キラキラと光る色素の薄い瞳。とにかく綺麗な顔なのだ。朝日が似合う男なんて、そうそう周りにはいない。
 「…どうした?」
ハッと意識を稔から背け、別に、と短く返し単語帳に目を落とした。
 出会った頃より、格段に低くなった声も私は好きだ。声変わりの時期は声が掠れてて面白かったのを思い出した。頬が自然と緩んでしまい、慌てて身を引き締めた。








 「部活頑張ってね、怪我しないでよ」
6限とH.R.が終わって稔にいつも通り声を掛けた。ありがと、と優しく笑ってシューズやバッグを持って、部活メンバーとゲームの話をしながら階段を下って出ていった。今日は強豪との練習試合だそうで、朝楽しそうに話してくれた。
私も部活に行こうと身支度を整え、駆け足で体育館へ向かった。

 私が所属しているのはダンス部で、いい成績もとっている。この間県大会の出場が決まったところだ。気合を入れて、ストレッチから全力で取り組むのが、自分に課したルールだ。


練習が終わり、友達と別れて家に向かい、今日も変わらず母の作った美味しい夜ご飯を食べ、次の日の小テストの勉強をしてベッドに寝転んだ。明日、稔とどんな事を話そうか。サッカー部の練習試合は楽しかったのか。そういえば今日の小テストの結果はどうだったんだろう、と聞きたい事は山積みだ。楽しさに胸を膨らませて、そっと目を閉じた。










 次の日、稔は同じ電車に乗らなかった。
久々に朝練がない日だと嬉しそうにしていたのに、どうしたのだろうか。
 一本早い電車に乗ったのかもしれない、と軽く考えていたのが大きな間違いだったのだと思い知らされた。

稔の友達から一本の連絡が届くまで。

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