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第14話

形のあるまま
202
2023/06/01 00:01











「深春…」







部室に向かう途中、そんな声が聞こえた。


今日も塾でいないはずの、愛鈴の声が。





ひどく寂しい声だった。


私はこの声を聞いた事がある。




愛鈴は一度だけ、家に帰りたくないって言ったことがあった。


その日私は時間を潰すために、

家から音楽プレーヤーを持ってきて、

音楽を聴きながら町をひたすら歩いた。




私はいつまでも歩いてよかったけど、

愛鈴は親怖かったのか、

もう帰ろうって、そう言った。



その日、愛鈴と私の家の分かれ道で、

愛鈴は寂しそうな声で私の名前を呼んだ。









「せ、先輩………!愛鈴先輩がっ」



「……?愛鈴がどうかしたの?」


「と、飛び降りたって………」




「え?」
















駆けつけた頃には、

愛鈴の形をしているそれは、

先生達の手によって見えなかった。



そんなに、家庭環境が辛かったの?

勉強大変だったの?




その瞬間、ナイフが刺さるような

そんな苦しい痛みがした。




漂う血の匂い。

























愛鈴は死んだ。





あっという間に葬式が終わり、


制服のまま、私は家のベランダから夜空を見つめた。


一体、愛鈴の心には何本のナイフが刺さってたのだろうか。


この抜けないナイフを。



きっと抜いたら、痛くて…血液が落ちるのだろう。








痛すぎて、死んだ方がましだと思ったの?







今になって出てくる私の涙は、

私の傷口を染みさせた。













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