第11話

「正しくない」
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2022/09/30 05:00


















「なんでよっ!!!」



「黙れ!!」










ドアの向こうで親達が叫んでる。




久しぶりにお父さんが帰ってきたと思ったらこの様。



外は雨で、外に出られる状態じゃない。






親達が居て、ドアの向こうに出にくい。




クーラーのないこの部屋で、




喧嘩が終わるのを待つ。



暑い。






机の上にあるのは勉強道具だけ。








「勉強しよう」










勉強したら、「答え」以外考えなくて済む。






















「最近元気なくない?」




「え?」





下校時、深春にそんなことを言われた。




「……隈やばいよ?」


深春は手鏡を私に貸した。



確かに、隈がある。




「大丈夫、勉強しすぎただけ」



「…なんで?!」




「おかしいでしょ!愛鈴のお母さん!」




深春はぎゅっと私の肩を掴んできた。




いきなり声をあげたから、びっくりして



私はびくっとしてしまった。





「こんな隈っ……指摘されるはずだよっ……?!」



「普通のお母さんなら心配するでしょ!」



「ていうかそもそもなんで!こんなに勉強させるの?!」




…そんなにおかしいのかなぁ?



うちでは……普通だよ。






「忙しくて、気づかないんだよ」




「…そんなわけ」





「塾だって、きっと高校生になれば終わる」




私はそれまで勉強して、頑張る。





もう…それしかないの。









「…」



「そんなに心配しないでよ」



「今日は早く寝るし」





「約束だよ…?」




「うん」




















「おかえりなさい、愛鈴」



「ただいま」








勉強しよう。











私はずっと、勉強してる。



勉強しなかったら、色んな事を考えてしまう。



部長のこと、委員会のこと、学級委員のこと



コンクールのこと、部員との人間関係。




深春のこと。






考えると、苦しくなる。











何のための、勉強?


































「部長を決めます」



先輩が引退した。





だから部長を決めることになった。



皆が投票しに行ってる。




私は自分に投票した。




先生が票を数えているのを、じっと見つめる。




きっと大丈夫。




前々かはいつ投票があるか、教えて貰って



頑張ったんだから。






あんなに頑張ったんだよ。














「部長は、深春さんに決まりました」





「…」






そっか。











「やった!!」







「良かったね、深春」










ただ、絵を教えるだけの私。








絵が上手くて、可愛くて、




優しくて、愛嬌のある深春の方が部長になるに決まってる









皆喜んでるように見える。



そりゃそうだよね。



























「どういうことよ!」





頬を叩かれた後に、転んでしまって



私は壁に頭を打ってしまった。





頭と頬がジンジンと痛む。





リビングにはコーヒーを飲んで、新聞を読んでる父。















「部長になるって言ったじゃないのっ…?!」




ぁあ……痛いな。



正しく………頑張ってきたはずなのに。




あ…正しく?




正しく生きていれば…?




ぁあ………私は正しくないから、




こんなことになってるのか。




同性愛者で、




女の子を、深春を好きになったのが駄目だったのか。




「……ごめんなさい、塾………もっと行くから」
























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