千世からだよ─────
これまで何度も、何種類もの過去と未来を見てきた
なのに一度も見聞きしなかった兄の真実
妹の私が知らなくて、赤の他人のコイツが知っていたことに素直に憤りを覚える
頭の中が濁っていく
思考回路がごちゃごちゃで、訳が分からなかった
何でお兄ちゃんのことを知ってる?
半間修二は何者?
トリガーの稀咲とどう関係がある?
いや、考えるまでもない
どんなに思考がごちゃついていても分かってしまう
それほど明確に道は開けてしまっていたのだ
半間の口から語られる1度目の現代
それは壮絶なものだった
全ては佐野万次郎から始まった
いつも一緒に遊んでいた幼なじみ5人組
万次郎、圭介、ハル、千壽……そして私
ある日、万次郎は植物状態に陥った
それを皮切りに、圭介とハル………真兄の人生は狂い始めた
特に真兄は、大好きだったバイク屋をやめて介護職に就いたらしい
やがて、万次郎は死んだ
その後しばらくしてから、真兄も後を追うように自殺した
私はと言うと、狂って死んでいく幼なじみを見て心を病んでいたらしい
幼い由鶴と病んだ妹の世話はさぞかし大変だっただろう
そして私はそのまま自殺した
自宅のアパートのベランダから飛び降りた
そんなに高くないものの頭から落ちて首の骨を折っており、即死だったらしい
まだ0歳か1歳そこらの由鶴は餓死
満足な食事を与えられず、裏社会の両親と親戚から見捨てられた小学生以下の三兄妹
お兄ちゃんもその後、自宅で絶食した挙句に死んだ
これが、本来あったはずの私たちの人生だった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!