第3話

第一志望の考え直し
月島旦陽
月島旦陽
あ、さとちゃん。この問題集、説明が分かりやすくておすすめだよ


 今日は下校途中にさとちゃんと本屋へ来ていた。

河野聡子
じゃあ、それにするわ。……けど、本当に平気なの? 今日、家庭教師きょうしの日よね
月島旦陽
月島旦陽
大丈夫、余裕よゆうはあるの。(お風呂入ったり掃除そうじなんてしなければだけど)
河野聡子
そう? いつもすぐ帰るから、時間がないのかと思ってたわ
月島旦陽
月島旦陽
先生が来るまで少し休んでるだけだよ(本当はオシャレ頑張がんばってるだけだけど!)


 紙のこすれる音や足音くらいしか聞こえてこない静かな本屋で、私とさとちゃんは声をひそめて話していた。

月島旦陽
月島旦陽
いたっ!


 その時、後頭部こうとうぶにチョップされたような痛みが走った。

椿湊詞
椿湊詞
予習くらいしてろ







     。○。○。。○。○。。○。○。



月島旦陽
月島旦陽
その声は椿つばき先生!


 振り返った先には、両手を広げた椿つばき先生が待っていた。

月島旦陽
月島旦陽
こんなところで会うなんんて、運命うんめいですね


 そのむねに飛び込むと、椿先生は私をやさしく包み込んでくれる。

椿湊詞
椿湊詞
俺と旦陽あさひは赤い糸でつながってるんだ。自然と引き寄せられるんだよ
月島旦陽
月島旦陽
先生っ! 私、もう一生はなれたくない!
椿湊詞
椿湊詞
無茶むちゃなこと言うな。けど、旦陽が呼ぶなら俺はどこへだってむかえに行くよ




     。○。○。。○。○。。○。○。






月島旦陽
月島旦陽
椿せんっ……せい


 さとちゃんがいることも忘れて妄想もうそうひたり、声を荒げそうになった私は、ギリギリのところでわれに返る。

月島旦陽
月島旦陽
こんなところで会うなんて、先生も本を買いに来たんですか?
椿湊詞
椿湊詞
……あぁ、お前用の参考書をな


 学校でのお淑やかで頼りになる「月島さん」で椿先生に話しかけると、怪訝そうな目を向けられた。

河野聡子
もしかして、旦陽の家庭教師の……?
月島旦陽
月島旦陽
うん、椿先生。椿先生、こちらは友達の聡子ちゃんです
椿湊詞
椿湊詞
……あぁ、はじめまして。こいついつもさわがしくしてない? さっき俺がしたみたいに頭叩いて止めるくらいがちょうどいいから
月島旦陽
月島旦陽
椿先生!? さとちゃんに変なことを教えないでください!
椿湊詞
椿湊詞
よくそんなこと言えるな? さっきも俺で変な妄そ――
月島旦陽
月島旦陽
あぁー!! 先生、本屋でそんなに大声で話すのはマナーが悪いですよ?
椿湊詞
椿湊詞
いや、大声あげたのはお前
河野聡子
ふふっ、あはは!


 さとちゃんの笑い声を聞き、私と先生は顔を見合わせて疑問符ぎもんふを浮かべた。

河野聡子
ふふっ、椿先生と話している旦陽はいつもと少し違うのね
月島旦陽
月島旦陽
そ、そんなことっ
河野聡子
私はそんな旦陽も好きよ? けーど、今日はもうお邪魔みたいだし、先に帰るわね
月島旦陽
月島旦陽
……あっ、ありがとう! 気を付けて帰ってね。またあした


 さとちゃんは小さく手を振ると、レジの方へ歩いて行った。

椿湊詞
椿湊詞
お前、本当に優等生してるんだ?
月島旦陽
月島旦陽
そうですよ! 椿先生に見合う素敵女子だったでしょ?
椿湊詞
椿湊詞
んー? 猫かぶりは素敵女子じゃない
月島旦陽
月島旦陽
い、今は猫かぶりかもしれないけど、それをいつか素にするんですぅー!
椿湊詞
椿湊詞
はいはい。まぁ、ほどほどにな。それより、早く本選んでお前の家行こ
月島旦陽
月島旦陽
えっ、それって……
椿湊詞
椿湊詞
待て待て、妄想入るな。お前にも選んでもらうから


 そういうと、先生は複数の参考書を手に取った。しかし、その中には椿先生が通う猫野ねこの大学関係のものはなかった。

椿湊詞
椿湊詞
とりあえず、次はこの辺をやらせようと思ってるんだけど
月島旦陽
月島旦陽
それより、猫野大学の過去問集が必須でしょ! そろそろやらなきゃ!


 私が過去問集をたなから引き抜こうすると、その手を先生にとめられてしまう。

椿湊詞
椿湊詞
それな、少し考え直せ
月島旦陽
月島旦陽
え? 急に、どうしたんですか? 今まで何も言わなかったのに
椿湊詞
椿湊詞
旦陽、やりたいことないの? そういうの含めて、もう少し考えろ。まだ間に合うから
月島旦陽
月島旦陽
けど、私は先生と一緒に……っ!
椿湊詞
椿湊詞
はい。じゃあ、とりあえずこの三冊な。買ってくるから待ってろよ


 椿先生は私の言葉をさえぎり離れていってしまう。

 今まではなかったつきはなされた感覚に戸惑とまどい、少しの間、先生の背中を見つめることしかできなかった。