第6話

大好きなだけなのに


 駅前にある模試もしを受けたじゅくにたどり着き、私は窓口で結果を受け取った。

 本当はすぐにでも封筒ふうとうを開けて、椿つばき先生と一緒に結果を確認したい。

 だけど、椿先生の目の前で、そして人目がある所でさわいでしまうのはみっともない。

 さっき、高崎たかさきさんのことで問い詰めて怒らせてしまったばかりだし、ここは我慢しなければ、と封筒をかばんにしまう。

月島旦陽
月島旦陽
椿先生?
椿湊詞
椿湊詞


 返事はいつも通り素っ気そっけないけれど、ちゃんと私を見て話を聞こうとしてくれている。

 さっきよりは怒っていないようで、私はそのまま話を続けた。

月島旦陽
月島旦陽
付き添いありがとうございました。
早く帰って――
椿湊詞
椿湊詞
あぁ、じゃあ、そこのカフェ入るか
月島旦陽
月島旦陽
え? けど、帰って結果を……
椿湊詞
椿湊詞
だから、ついて来たんだけど?
カフェで一息ついて見てけばいいよ
月島旦陽
月島旦陽
え!?







     。○。○。。○。○。。○。○。



椿湊詞
椿湊詞
旦陽あさひが考えることなんて何でもわかるよ
月島旦陽
月島旦陽
椿先生が来てくれるだけで嬉しくて、なんでかなんて考えてなかったけど……。
私のためだったんですね!


 椿先生は私の手を取り、柔らかい笑みを浮かべる。

椿湊詞
椿湊詞
俺を思って一生懸命いっしょうけんめい頑張がんばってくれたからだよ。
これくらい当たり前




     。○。○。。○。○。。○。○。






月島旦陽
月島旦陽
椿せんせぇ!!!
そうとは知らず、私……ごめんなさい!
あんな問い詰めるようなことをっ!!
椿湊詞
椿湊詞
いいよ、俺も悪かったから
月島旦陽
月島旦陽
先生がそんなに私のことを考えてくれていたなんてっ!!
感動で涙が出ちゃうよー!
椿湊詞
椿湊詞
うん?
お前、妄想混ざってない?
月島旦陽
月島旦陽
私ぃ、椿先生のためならなんでも頑張れますぅー!!


 私が外にも関わらず大騒ぎをしていると、椿先生の大きな手が本当に私の手首を掴んだ。

月島旦陽
月島旦陽
えぇっ!? つ、椿先生!?
椿湊詞
椿湊詞
もう妄想してていいから、歩いて


 私の返事をまたずにぐい、と手を引いて、私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

 今日みたいな椿先生の何気ない気遣いと優しさが、私はやっぱり大好きだ。









 カフェに入って空席を見つけると、椿先生は「先座ってて」と私に荷物を手渡した。

椿湊詞
椿湊詞
なに飲む?
月島旦陽
月島旦陽
え、っと、じゃあ冷たいミルクティーを――


 そう言って財布さいふを出すが、それはすぐに椿先生に取り上げられて鞄に戻されてしまう。

椿湊詞
椿湊詞
模試を頑張ったから、とりあえずのご褒美ほうびってことで
月島旦陽
月島旦陽
そんな、おごってくれるとか彼氏みたい!!
ありがとうございますっ!
椿湊詞
椿湊詞
はいはい。
じゃあ、待ってて







 注文したドリンクを手に椿先生が戻ってくる。

 お互い飲み物を飲んで一息ついたところで、私は模試の封筒をテーブルの上に出した。

月島旦陽
月島旦陽
じゃあ、開けますよ!
椿湊詞
椿湊詞
どうぞ


 しかし、封筒を開ける手が動かない。

 今になって、A判定を取れていなかったら、という心配が出てきていた。


 椿先生に開けてもらおうと思い、顔を上げるが――。

椿湊詞
椿湊詞
いまさら開けるの悩んだって結果は変わらないから
月島旦陽
月島旦陽
うっ!
けど、緊張きんちょうするんです!!
椿湊詞
椿湊詞
そ、がんばれー
月島旦陽
月島旦陽
棒読み過ぎませんか!?
もうっ! いいです、開けます!!


 先生とのやりとりで少し緊張はほぐれ、私は思い切ってふうを開き中の用紙を取り出した。

月島旦陽
月島旦陽
……


 全体に目を通して椿先生に用紙を手渡す。

 ずっと無言のままの私に、先生の表情には少し不安がにじみ出ていた。


 しかし、結果を見てすぐに椿先生はほっと息をつく。

椿湊詞
椿湊詞
なんだ、A判定じゃん
月島旦陽
月島旦陽
なんだってなんですか!!
それより、どう!?
椿湊詞
椿湊詞
満点多いな。
英語のリスニングが多少心配ってとこか。
これならもう少し頑張れば、大体のところは狙えるな
月島旦陽
月島旦陽
え? A判定だよ?
大体のところは狙えるってどういう……
椿湊詞
椿湊詞
宣言通りこんだけ頑張って、A判定とったのはえらいよ。
けど、俺はちゃんとどこの大学に行くかもう一度考えろって言ったよな?
月島旦陽
月島旦陽
私は! 先生と一緒の猫野大学に行きたいんです!
A判定取ったのに、これでもダメ!?
私が、先生と同じ大学に行くのがそんなにダメなの?
椿湊詞
椿湊詞
まず、その考え方が違うんだって
月島旦陽
月島旦陽
考え方が違うって……、わからない。
なんでそうやって、教えてほしいことは全然教えてくれないの!?
高崎さんのことだって……
椿湊詞
椿湊詞
落ち着け。
なんで今、高崎の話を出すんだよ
月島旦陽
月島旦陽
もういいです!
自分で確かめますからっ!!
椿湊詞
椿湊詞
は?
お前なぁ――


 私は先生の話を聞かずに乱暴に立ち上がり、鞄をもって足早に店を出た。

月島旦陽
月島旦陽
(椿先生が悪い! 椿先生が……)


 駅の改札前までやってきて後ろを振り返ったが、椿先生はどこにも見えなかった。

月島旦陽
月島旦陽
(椿先生のことが、大好きなだけなのに。なんでこんなにうまくいかないんだろう)