私は、すでに勉強道具が揃えてある机に紅茶のカップ置き、椿先生と私の椅子をぴったりと隣り合うように並べてから座った。
椿先生は何事もなかったように椅子を離して座り、たくさん付箋が貼ってある教科書を鞄から取り出した。
そのまま授業は始まり、椿先生は教科書の問題をわかりやすいように補足を書き足しながら教えてくれる。
その時、椿先生が少し体を寄せて私の教科書を指さす。
触れそうで触れない肩、ノートを覗こうと急接近する横顔、ふわっと香る椿先生の匂い、ノートに綴られる綺麗な字。
思わず見惚れていると、椿先生の瞳が私をとらえた。
。○。○。。○。○。。○。○。
妖艶な笑みを浮かべた椿先生は、大きく男らしい手を私の頬に添えた。
彼の整った綺麗な顔がゆっくりと迫ってくるの見届け、私は瞼を閉じる。
。○。○。。○。○。。○。○。
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆い、足をばたつかせていると……。
椿先生の大きな手が私の頭を鷲掴み、ギリギリと握りしめていた。
前にやった公式の応用だというのは見てわかり、私は何とか答えをひねり出して書いていった。
私が解きはじめると、椿先生は肘をついて飽きれたようにため息をついた。
こんなことを言ってるけど、椿先生は何やかんや私を見捨てたりはしない。
勉強が全くできなかった中学の時でさえ、椿先生は私に根気強く教えてくれた。
私のことを「顔がいいだけの馬鹿」と罵ったお母さんや中学の同級生とは違う。
それに、辛辣なことも言われるけど、椿先生って意外と世話好きなんだよね。
そういうと同時に、私の頭をふわりと軽く撫でてくれる感触がした。
すぐに手は離れていってしまったけど、あたたかい感触が触れられたところに残っている。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!