第14話

将来のために


 椿先生は私のかたに頭をのせてもたれ掛かり、いつもは聞けないような可愛い寝息をたてていた。

 これが本当に現実なのか、それとも、私の妄想もうそうなのか、疑ってしまうほど幸せな休憩きゅうけいタイム。


 だけど、一つだけ不満がある。

月島旦陽
月島旦陽
(この体勢だと椿先生の寝顔見えないんだけど!)


 椿先生を起こさないように体を動かさず、伸びるはずもない首を極限きょくげんまで伸ばして必死に顔をのぞこうとするが、どうやっても見えるのは頭だけ。

 むきになって無駄むだな努力を続けていると……。

???
ママぁ!!


 泣きながら走り寄ってきた小さな女の子が私に手を伸ばしてそうさけんだ。

 しかし、私の顔を見ると立ち止まってしまい、目にあふれんばかりのなみだめた。

月島旦陽
月島旦陽
え!? えっとぉ
???
うわぁーーーーーん!
ママぁ、どこーーーー!!
月島旦陽
月島旦陽
ま、迷子に、なっちゃったの?
???
うわぁーーーーーん


 大泣きしている女の子に困惑こんわくし、どうすればいいかわからず固まっていると、椿先生があくびをしながら起き上がった。

椿湊詞
椿湊詞
……はぁ~。
なに、どうしたの?
月島旦陽
月島旦陽
椿先生!
この子、迷子みたいで……


 そう聞くと、椿先生はしゃがみこんで女の子と目線を合わせ、持っていたカチューシャを女の子の前に出した。

椿湊詞
椿湊詞
ほら、これかわいいでしょ?
???
うぅーー、……ひっく、……うっ、うん
椿湊詞
椿湊詞
君にあげる


 カチューシャを着けてあげると、女の子は少しそれに気を取られたようで涙が止まった。

椿湊詞
椿湊詞
うん、すごく似合うね。
ね? 旦陽
月島旦陽
月島旦陽
え……、あ、うん!
とっても可愛いよ!
椿湊詞
椿湊詞
こんなに可愛いと、ママもすぐ君のこと見つけられるよ。
一緒に探しに行こうか
???
ま、ママ……みつかる?
椿湊詞
椿湊詞
もちろん。
お名前、言えるかな?
ななみ
ななみだよ!
椿湊詞
椿湊詞
よし、じゃあ肩車してあげるから、ママを見つけたら指さしてね
ななみ
わーい、かたぐるまぁ!


 ななみちゃんは笑顔で椿先生の肩に乗り、不安なんてなくなったようにはしゃいでいた。

月島旦陽
月島旦陽
椿先生、子供慣れしてるんですね
椿湊詞
椿湊詞
そう?
それより、旦陽は迷子センターがどこか地図で見てくれない
月島旦陽
月島旦陽
それなら、あのアトラクションの奥です!
椿湊詞
椿湊詞
ん、じゃあ、放送入れてもらいに行くか








 迷子の放送を入れると、すぐにご両親がむかえに来た。

 椿先生になついてしまったななみちゃんはなかなか離れようとしなかったけど、また家族3人笑顔で遊園地へと戻っていった。

月島旦陽
月島旦陽
(家族かぁ。椿先生っていいお父さんになりそうだなぁ)
椿湊詞
椿湊詞
旦陽、行くよ
月島旦陽
月島旦陽
あ、はい!
月島旦陽
月島旦陽
(けど、私は、ななみちゃんが泣きだしただけで固まっちゃったし……、椿先生呆れちゃったかなぁ)
椿湊詞
椿湊詞
今のうちにあれ乗っておこうか。
どうせ、ああいうの好きでしょ?
月島旦陽
月島旦陽
(いつかは子供欲しいけど、私って子育てできるの? 圧倒的に経験値不足だよね)
椿湊詞
椿湊詞
……旦陽?
月島旦陽
月島旦陽
(椿先生の彼女になるなら、……まぁ、将来は絶対に……ね。となると、必須事項かなぁ)
椿湊詞
椿湊詞
置いてって迷子にしてあげてもいいけど?
月島旦陽
月島旦陽
わかった!! 椿先生!!
椿湊詞
椿湊詞
ん、迷子になるのね
月島旦陽
月島旦陽
え? な、なりませんよ!
椿湊詞
椿湊詞
はぁ……、で、なにがわかったの?
月島旦陽
月島旦陽
私、将来のために保育系の勉強をしたいです!
椿湊詞
椿湊詞
旦陽……、お前それまた俺が理由になってない?
月島旦陽
月島旦陽
それは、含まれてるけど……。
それだけじゃなくて、……将来の家族と私のためです!
椿湊詞
椿湊詞
……ま、考えた結果、それに対してやる気があるならいいんじゃない。
ほら順番くるよ。手かしてあげるから、先に乗りな
月島旦陽
月島旦陽
え? 順番って……これ!?


 私は椿先生に手を引かれ、いつの間にか観覧車かんらんしゃの列に並んでいた。

 観覧車と言えば好きな人と乗りたいアトラクションNo.1ナンバーワンに決まっている。

 日も暮れてちょうど夜景も綺麗な頃合いだろう。


 私は観覧車の前で足を止め……。
月島旦陽
月島旦陽
せ、先生……。
つまり、これは私を彼女に……
椿湊詞
椿湊詞
こんなところで止まるな。いいから乗れ
月島旦陽
月島旦陽
は、はい!





 ゆっくりとてっぺんに上っていく観覧車内で、私は緊張きんちょうのあまり一言もしゃべれずにいた。

 椿先生はといえば、いつも通りの何事もないような様子で外をながめている。

月島旦陽
月島旦陽
(さっきの話途中だけど、喋っても声が震えちゃいそうで何も言えないよぉ!)
椿湊詞
椿湊詞
……旦陽が思ってるほど、俺はできた人間じゃないよ
月島旦陽
月島旦陽
え?
椿湊詞
椿湊詞
旦陽の補整で俺が良く見えてるだけ
月島旦陽
月島旦陽
そ、そんなこと……!
多少あるかもしれませんけど……、別にそんなのいいんです!
椿湊詞
椿湊詞
それでいいなら、将来のために頑張りな。
俺も資格とって頑張るから
月島旦陽
月島旦陽
それって、もしかして……。
……頑張ります!!
頑張るから、待っててくださいね
椿湊詞
椿湊詞


 いつもと何も変わりないようにみえたけど、ほんの少しだけ椿先生の声が震えていたような気がする。