第5話

椿先生の彼女?


 椿つばき先生を納得なっとくさせるために、そして、彼女がいるかもしれないという嫌な予想を忘れたくて、私は勉強に明け暮れていた。

河野聡子
ここ最近休み時間も勉強してるわね。試験期間でもそんなことしないのに、どうしたの?
月島旦陽
月島旦陽
あ、さとちゃん。模試を受けるんだけどね、どうしてもA判定をとりたいの
河野聡子
模試ねぇ。……肌はツヤツヤでクマもないし、ちゃんと睡眠はとってるみたいね。無茶はダメよ? けど、頑張ってね
月島旦陽
月島旦陽
ふふっ、ありがとう


 実は、夜遅くまで勉強しているせいでクマはできていた。毎朝、リスニングの勉強をしている間にしタオルでなんとか消している。

 美容もおこたりたくはないけど、椿先生と同じ大学へ行くためなら仕方ない。

 今は勉強あるのみ……だが。
月島旦陽
月島旦陽
(彼女なんて嫌な予想しちゃったせいで、本当はいても立ってもいられない!! 椿先生に聞きたいくらいだけど、絶対に妄想もうそうだと思われるから無理だし!! あーー、もうっ!!)





 そうして、一か月もせずに模試の日を迎え、私はすべてを出し切って試験を終えた。


 家に帰りながら私は椿先生にメールを送った。

月島旦陽
月島旦陽
模試終わりました。
絶対にA判定だから!
首を洗って待っててください!!
椿湊詞
椿湊詞
お疲れ様。
喧嘩腰けんかごし報告ほうこくどうも。
結果いつ受け取りに行く?
月島旦陽
月島旦陽
来週の金曜日に、学校帰りに受け取りに行きます。
椿湊詞
椿湊詞
わかった。
俺も行くから、学校に迎えに行く


 椿先生の返信を見た瞬間、私は電車の中にも関わらず声を上げそうになってしまった。

月島旦陽
月島旦陽
(学校に迎えに行くって!! なんか放課後デートみたい~!!)










 模試の結果を受け取りに行く日、私はいつもは学校に持ってこない色付きリップをトイレでこっそりとぬり、先生に見つからないよう足早に校舎を出た。


月島旦陽
月島旦陽
(椿先生、もう来てるかな?)


 下校する生徒たちがいる中、当たりを見渡すと校門の前に見覚えのある男性の後姿が見える。


 しかし、その隣には見知らぬ女性が立っていた。

 レースがあしらわれたパステルグリーンのワンピース。
 チョコレートのようにつややかなかみをなびかせてさわやかな笑みを浮かべている。

 しなやかな彼女のうでは、となりに立つ男性の腕にからみついていた。

月島旦陽
月島旦陽
……椿、先生?


 おそる恐る名前を呼ぶと、男性はこちらを振り返った。

椿湊詞
椿湊詞
あぁ、旦陽。学校お疲れ
???
あ、この子が湊詞そうしくんの生徒ちゃんなんだ。
月島旦陽
月島旦陽
湊詞そうしくん!?!? 椿先生を名前呼びって……)
高崎玲奈
はじめまして。
私、高崎玲奈たかさきれいな。よろしくね。
月島旦陽
月島旦陽
はじめまして、月島旦陽つきしまあさひです
椿湊詞
椿湊詞
わかった?
本当にこれから家庭教師のバイトだから。
そろそろ帰ってくれる?
高崎玲奈
もう、仕方ないなぁ。
じゃあ、また今度デートしてね


 高崎さんはそう言うと、椿先生の頬に唇を近づけてキスをしようとした。

 しかし、椿先生は彼女の肩に手を置いて押し退ける。

椿湊詞
椿湊詞
じゃあね


 先生はそのまま私の背を押して駅の方へと歩き始める。


 高崎さんが気になって振り返ってみると、先程の爽やかさは消え失せ、呪い殺されそうなほどの目つきで睨まれていた。

月島旦陽
月島旦陽
つ、椿先生?
さっきの人はもしかして……
椿湊詞
椿湊詞
大学の同じゼミの人だよ
月島旦陽
月島旦陽
か、彼女ですか!?
椿湊詞
椿湊詞
は?
いや、だから――
月島旦陽
月島旦陽
だって! あんなにベタベタくっついて、名前呼びで……、デートって!!
椿湊詞
椿湊詞
それはあっちが勝手に言ってることで
月島旦陽
月島旦陽
じゃあ、なんで妙に扱いが丁寧なんですか!?
私がキスなんてしようとしたら頭鷲掴わしづかみでしょ!?
椿湊詞
椿湊詞
はぁ……、連れてきたのは悪かったよ。ごめん。
けど、だからってつっかかってくるな


 そう言うと、椿先生は少し速足で私の前を歩いていく。



 置いていかれないようについていくけど、歩調を合わせてくれないくらいには少し怒っているのが伝わってきた。

月島旦陽
月島旦陽
(本当に彼女じゃないなら、……なんなの。私が椿先生のこと好きなの知ってるんだから、少しくらい説明してよ)