それだけ言って
1人になれる部屋に潜った。
最近食欲が全然ない。
なんなら10kgほど痩せたぐらいだ。
iPodを取り出し
ビジュアル系のバンドをタップする。
最近こういう類の曲が好きだ。
落ち着く、というか、なんというか。
無意識に棚を探る俺。
手に取ったのは細めのニードル。
その先には血が固まっていて
清潔もクソもないだろう。
曲を聴きながら
まだ開けていない軟骨にニードルを当てがった。
この行為も、やっぱり落ち着く。
少しだけチリっとした痛みが感じられて
生きてる、という心地がするから。
いつからこんなふうになったんだろう、
と聞かれたらそれはもう
答えざるを得ないぐらい的確な主因がある。
" テオくんを想いすぎたから "
感情を持つ相手を間違えた。
そんなこと分かっていてもどうしようもできない。
俺がテオくんのことをどう思っていようと
まさか異性なわけでもあるまいし
あっちからしたらどうでもいい。
死ぬか生きるか、ただそれだけ。
だからこうやって生きてる心地を得るのだ。
..なんで愛してくれないの、
たまにそんなありえないことを考える。
いや、その考えを
" ありえない " と思えているだけでマシなほうだ。
普通に考えたら " ありえない " 行為を
無意識にやっていることだってあるんだから。
iPhoneの通知音が鳴り響いて
すぐにそれを手に取る。
ただ画面を見ても
公式からの迷惑メールだった。
1日500通メールしても
1日中電話しても
もう何も言ってこないから。
気がつくとほら、
俺の右手首には赤い線が何本も浮き上がる。
色が白いからか、余計鮮やかに見えるのだ。
この新鮮な血を、テオくんに見せたい。
俺も立派な人間なんだって
俺にもこの感情を持つ資格があるんだって。
聞き手とは逆の右手でカッターを持つと
どうも上手く切り込みが入らない。
練習しておこう、
..って、何考えてんだよ、俺。
我に返ると俺は
また知らない間に涙を流していた。
..全部全部、テオくんのせいだ。
その声を聞きたくなって
もう一度電話を試みる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!