《☆イニ☆side》
「本日のご指名カードです。」
休憩室に着くなり、世話役からカードを受け取る。
「あれ、」
手に取ってから気づく、その少なさ。
今日はたったの1枚だ。
長年やっている事なのに、未だにホッとしている自分がいるのは情けない。
と、時間に目を通す。
13:00から閉店まで、と明記されている。
なんせこういう類の店だ、閉店時間もかなり遅い。
今日は長時間労働か、と肩を落とす。
もうそろそろで時間になる事を確認すると、必需品を持って部屋に向かった。
だだっ広い部屋にポツリとある椅子に腰かける。
チク、チク、と進む針をただ眺める時間。
やはり何年経っても、緊張はしてしまう。
恐怖だって勿論ある。
____ピーンポーン、
当たり前だが、前触れもなく鳴るインターフォン。
はぁ、とひとつだけ溜息をつき、扉を開けに行く。
「ようこそ」
自分の愛想を精一杯振りまく様に言う。
「ぁ、」
この人はこういう所に慣れていない人なのだろうか。
小さく声を漏らして以降、何も言わなくなった。
「どうぞお入りください」
馬鹿みたいにフワフワなベッドに並ぶように座る。
そして、やっと初めてしっかりと顔を見た。
薄い唇に、高い鼻、そしてパッチリとした目。
第一印象は悪いものでは無い。
目が合った瞬間、バチッ、という感覚に陥ったのはきっと、整った顔の所為だ。
その男は少し嬉しそうな顔をした後、すぐ哀しそうな顔に変わり、俯いてしまった。
彼女に振られてその気晴らしに来た人、だろうか。
「え、と…お名前、は」
俺を指名する人は大体が直ぐに喰ってきてしまうため、名前なんて聞く必要はない。
というか、自分が誘導する事なんてなかなか無いからこういう事だけには疎いのだ。
「…テオ」
「…テ、オ?」
本名だろうか、珍しい名前だ。
「だからその、テオくん、って呼んでほしい」
そういう…性癖、なのか。
プレイの一貫だと思って受け入れる。
「分かった、テオくん」
どうせその呼び名で呼ぶなら、と敬語を解く。
一言そう言うと、より哀しげに笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。