《テオくんside》
この世界、
いや、この人種は不公平だ。
" 王様ゲーム " のウイルスに犯され
強制的に命に関わるゲームに参加させられる。
そんな人種の人間は
少ないわけではなかった。
もちろん俺の友達にだって
大切な動画仲間にだってその人種の人間がいる。
なんでこんなに苦しい思いをしなきゃいけないのか
考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなって。
何回もこのゲームを辞めようとした。
でもそれは許されない。
必ず、辞めようとする人間には罰が与えられるのだ。
軽いものから重いものまで。
そんなの嘘でしょって思うかもしれないし、
正直俺も嘘だと思って命令に従わなかった。
考え事をするとフリーズしてしまう癖。
そろそろ直したいところだ。
今日もふたりで挨拶をする。
同じ目標に向かって。
だけど俺は違うことを願う。
今日も命令は来ませんように、と。
じんたんはウイルスに犯されていない。
なるべく巻き込みたくないのだ、大切な人を。
だけどそんな期待を鮮やかに裏切るのが
正体不明の " 王様 " だった。
揺れながら音を鳴らすiPhone。
時計を見ると12時ちょうどだった。
素早く中身を確認する。
『このゲームはウイルスに犯された人間全員で行うゲームです。動画クリエイター テオくん は 動画クリエイター ☆イニ☆ と性行為をする。王様の命令は絶対です。途中棄権は認められません。なお、テオくん は ☆イニ☆ にゲームに参加していることを言及してはいけない。ルールに逆らった者には罰を与える。今回の罰 : ☆イニ☆が心臓麻痺で死亡。END』
メールの内容を見て愕然とする。
この王様ゲームは
" 人間関係を破壊するゲーム " と呼ばれていた。
確かにそうなのかもしれない。
王様はどこまで知っている?
俺の想いや気持ちまでも
全部理解して出した命令なのだろうか。
簡単に言ってしまえば俺は、
____じんたんが好きだ。
でもそれを言わないのは
今の関係を崩したくなかったから。
だから今回のメールは
好都合のようで、とても不都合なのだ。
完全に王様は
俺らの関係をぶち壊しに来ている。
せっかく、
俺がこの気持ちを抑えてまで築いてきた関係なのに。
でもやらざるを得ないんだ。
俺自身に罰が与えられるならまだいい。
今回の罰は
じんたんの命に関わるから。
王様は残酷すぎる。
俺にとってじんたんが死ぬことは
自分の " 死 " 以上に辛いということを
王様は知っているのだ。
純粋なじんたん。
俺はそんなに酷い顔をしているのだろうか。
ん、と首をかしげているが
そんなことは気にしていられなかった。
今日の24時までに遂行しなくてはいけない。
当たり前だが
その日の撮影が上手くいくことは無かった。
" ここ " はスカイハウスのことだろう。
時計を見ると短い針は16時をさしている。
あと8時間。
心臓が激しく鳴り止まないが
もう決意はしている。
じんたんを守ることに恥などないから。
だからごめんじんたん、
その言葉に甘えちゃうね。
一瞬困ったような顔をするが
すぐ優しい笑顔になって
分かったよ、と言ってくれた。
この時点で8時間後のことはもう目に見えている。
少しでもじんたんと一緒にいたいから。
命令を遂行するのは、まだ先でいいだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!