《☆イニ☆side》
今日は俺らが初々しかった頃の話をしようと思う。
あれは確か
お互いの気持ちが
やっと通じ合ってから間もない頃だ。
少々アルコールに侵されていて
頭がうまく回っていないようなテオくんが
自分の隣を叩いて俺を呼んだ。
言いながら近くに寄ると
眠い、と肩に頭を預けてきた。
ぽつん、といつものように返すと
返事はこない。
もう寝たの、と顔を覗き込むと
目を瞑っていた。
少し茶色い長いまつ毛。
惹き込まれるようなその顔は
見ているだけで満足だった。
…と、
とろん、と目を開けて無邪気にいう姿と
からかわれた恥ずかしさで、赤面する。
急にこんな話になったため
うん、と間の抜けた返事しかできなかった。
テオくんってそういうの信じる人だったっけ、と
少し疑問に感じるが
酔っているので仕方ないのかもしれない。
会話を続けるために言った何気ない一言。
すると、
と言って
気づいたら俺は、テオくんに押し倒されていた。
付き合って以降、こんな雰囲気になったことはない。
ましてや
" それなりのこと " なんて
したことがあるはずなかった。
いつもより鋭いような眼で見つめられて
それだけで " そういう気分 " になってしまう。
これはきっと自分、
要するにテオくん自身のことだろう。
何故か饒舌に話すテオくんには
今までで見たことのないような色気があって。
その声が聞こえた時には
既に目をぎゅっと瞑っていて
それなりの覚悟をしていた。
身体のどこにも触れることなく
テオくんがまたからかうような声を出した。
まだ大きく響いて鳴り止まない鼓動が
俺の体温を上げている。
咄嗟に、と言うより無意識に
そんなことを言っていた。
そんなんじゃねーよ、と
また笑いながら目を擦るテオくん。
テオくんはそんなことをかんがえてくれていたのに
早とちりしていた自分が少し恥ずかしい。
ふざけたことを言いながら
こんなに気を遣える優しさを持っているのは
テオくんのいい所だった。
ごめんって、と
後から抱きついてきたテオくんのことを
きっと俺は、嫌いになることが出来ない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!