第117話

モノクローム※Ω4
1,413
2018/10/14 07:58
《テオくんside》







俺は居なかった。







彼奴の中に、





____彼奴の記憶の中に、俺は居なかった。







「どうぞお入りください」







昔から知っているその顔は、相も変わらず取り繕うような笑みを浮かべてそう言う。







遅すぎた。







迎えに来るのが。







…約束を、果たしに来るのが。







喜ぶはずだったのに。







遅せえよ馬鹿って、言われるはずだったのに。







彼奴が俺にかける言葉は、まるで他人に愛想を振りまくような薄い言葉で。







絶対にしないって決めてたのに。







迎えに来た時に伝え直すからって、



そう、約束したのに。







その約束を果たす前に、自分の欲に負けて。







彼奴の中に俺が居ないことを、良いことに。







俺にとっても、彼奴にとっても、何もが遅かった。







「…ごめん、本当に…ごめん」







割れ物に触れるかのように唇を重ねたのは、ただの俺の弱さによる逃げだった。







初めてなのかも、久しぶりなのかも覚えていない。







ただその甘すぎるキスに溺れるだけで。







薄らと目を開けると、涙を浮かべている彼奴の瞳と見つめあってしまう。







不意にバチッという感覚に襲われた。







突然香る独特な匂いは、間違いなく此奴のもので。







なかなか手が出せないのは昔からだった。







発情期の時は…特に。







それでも俺にかかるブレーキを外すのはいつも、紛れもない此奴で。







「…好き、だよ」







つるっと出てしまった一言に、無視して欲しいとさえ思ってしまった。







それでも彼奴は必ず返してくれるんだ。







昔から変わらず。







「…俺もっ、好きっ」







震える声から織り成されるそれに、複雑な笑みが零れてしまう。







そして俺は無責任に思う。







ねえ、やめてよ。







もうこれ以上、苦しませないで。







……これ以上、苦しまないで。







「…てっ、ぉく、っ…」







答えるように名前を呼んでくるから。







その白い首筋に、紅い花を咲かせてしまった。







こんな俺を、どうか許して欲しい。







…お願い、じんたん。

プリ小説オーディオドラマ