《☆イニ☆side》
「ん…わ、」
緩く鈍る脳が覚醒し、ゆるゆると繊維の摩擦の音が聞こえてくる。
ズクンと痛む頭を抱え重たい瞼を押し開けると、そこには丁寧に布団に包まれている俺を映す大きい鏡、だけが佇んでいて。
無性に肌寒く感じて布団に潜る。
…彼は……テオくんはもう、帰ったのだろうか。
きっと俺の身体がこんなに綺麗なのも、彼がしたことで、彼なりの優しさだ。
俺とは反対側に置いてあった枕を寄せると、まだあの懐かしく感じる匂いと…温もりが残っていた。
昨日思い出してしまった感情がまた心を飽和させて、思わずその枕を抱き締める。
何の媒質を通じて…なのか、自分の心臓の音が鼓膜の奥深くをつついてきた。
……もうテオくんには会えないのだろうか。
連絡先、聞いておけばよかったな、禁止だけど。
昨日ほど快楽に溺れた日は、この店に来てから初めてと言えるほどで、不覚にも意識を飛ばしてしまった。
のらりくらりと自己嫌悪に浸る。
時計を見ると閉店間際だった。
…また1から探し始めなければいけない。
やっと1歩進めた、と思ったんだけど。
もう少しこの枕に巻きついていようと思ったのは、彼に対する気持ちが儚いから、という訳では無い。
……はずだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。