《☆イニ☆side》
眩しい。
夏が近づいた、
暖かい、というより、少々暑いぐらいのこの季節。
まだ春、と言っても通用しそうだ。
眩しさはだんだん増していって
微かに見えるシルエットは逆光の中で、目がくすむ。
声に出した感覚はない。
なんならぼんやりとそれを眺めているだけだ。
身体はやけに落ち着いていて
一方頭の方は微睡んでいる。
気づけば遠くなっていて。
" あの日 " の色が、俺の脳内を侵食した。
.
暑いしもう夏か、と呟くテオくん。
小さなアパートの前で足を止める。
歩く時はこれ、というお決まりの歌と一緒に。
所沢、久米。
ちょうど5月あたりだろうか。
" これからの道 " を聞かれた。
いつも俺の " 前 " を行くテオくんに。
不安なんかないよ、そう言うから。
2人で歩き出した。
俺らの笑顔は絶えない。
いい慣れているような声で
そして、耳障りのいい声で言われる。
もう葉っぱだらけになってしまった桜の木。
その下には花びらが散りばめられている。
まだ咲いてたいよ、
なんて言いそうな花びらを見つめて
少し微笑んでしまう、これからの日々に。
____俺らの時間が。
テオくんも同じように思ってくれてるといいな、
ってちょっと過剰な願いを抱えてみるけど
きっとテオくんのそれと俺のそれは違う意味で。
俺はテオくんしか見えてないし
多分今までも
…これからも、テオくんしかいないんだと思う。
2人で過ごして
少しずつ、少しずつ、成長していく。
それでも俺は子供のままで。
少し曲がった感情なんて知らなくて。
" 優しさ " が時に " 残酷 " になることなんて
当然、知っているわけがなかった。
留守電にそう入れられていたのは
クリスマスあたり、だったかな。
乾いた空。
俺の左手には冷えたプレゼントが握られていた。
眩しい色とりどりのネオンが
賑わう街をさらに活気づけている日。
聞き慣れているはずなのに
いつもとは違うような声で。
そのまま立ち尽くして
自然と胸がじわっと熱くなった。
まるで火傷をしたような。
テオくんは俺に、
なんであんな嘘をついたんだろう。
優しい笑顔のテオくんなんて好きじゃないのに。
いつもみたいに
無邪気に笑うテオくんじゃなきゃ好きじゃないのに。
そんな取ってつけるような感情が溢れる。
唇の隙間から漏れ出た言葉は
やっぱり1番正直な気持ちだった。
目の前で目を薄く開けるテオくん。
口と鼻は
無機質な管で繋がれたマスクで覆われていた。
相変わらず綺麗な手。
それでさえ触ってしまったら壊れそうで
なかなか思うように手が動かない。
誰でもない。
テオくん以外じゃありえないのに。
なんで、
なんで苦しいのに、
最後の最後まで優しく笑うの?
俺が落ち着いちゃうような声で、
大丈夫、なんて言うの?
やっと掴めたのに。
やっとその手に温もりを与えようとしたのに。
間に合わなかった。
なんでテオくんはもうここにいないの?
本当にテオくんは、
…ここにいないの?
ガラクタになった体は冷えきっていて。
…どうしようか、
独りぼっちじゃ、
寂しいや。
泣かないで、
俺がいなくても大丈夫だから。
まるでそう言ってるかのように、
テオくんは涙を流した。
拭おうとも思わないぐらい、綺麗な涙を。
小さく、そう呟く。
分かってるんだよ、俺だって。
これで最後だから、
もう一回言わせてよ、
大事なものは失ってから気づく。
そんな在り来りな言葉さえも、俺にのしかかる。
俺の心の声は、テオくんに聞こえるのかな。
聞こえてたらいいな、
心配になるぐらい優しい人。
それがテオくんだった。
手を離して、俺はまた歩き出す。
テオくんが教えてくれた道を。
心の声は君にしか聞こえないんだよ
/ スカイピース
◎ Arrange by ぴぃち .
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重い重い重い暗い暗い!!!
ヤダヤダヤダ文才なさすぎてヤダ!!!!
本当にこの曲好きすぎて
手を出してしまう始末( ; ; )
なんか普段のスカイピースとは少し違うような
そんな感じをこの曲から感じて。
こういう類の曲はあんま聞かないんですけど
なぜかグサッときましたねあだだます。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!