大学構内を歩いていると、急に後ろから抱きつかれた。
聖くんは一年遅れて、私と同じ大学に進学してきたのだけれど、入学以降ずっとこの調子だ。
大学に入ってからできた女友達にとっても、すっかり定番の場面になってしまった。
三年前は小柄で、私と変わらない身長だったのに、今では頭ひとつ分も高いし、体格もがっちりしてきた。
その上でこの性格なので、以前よりも女子たちにもてはやされるようになっている。
それだけが、正直に言うと唯一の不安点だった。
***
私と聖くんは、結婚後すぐに一緒に住み始めた。
そう首を傾げて言われれば、私はよく考えずに頷いてしまい、流されるままに同棲が始まったのだ。
先に帰った聖くんを探すと、ソファの上で本を読みながらくつろいでいた。
最近、家ではなぜか目が冴えるようで、こうして起きていることが多い。
今は、なぜか私が聖くんに膝枕をしてもらうことが増え、立場がやや逆転している。
一度やってみたら、ハマってしまったらしい。
そういうところも、やっぱり聖くんは不思議で変わっていると思う。
髪を撫でられて笑うと、聖くんは満足そうに顔を近づけてくる。
びっくりして目を閉じれば、額に唇の感触が当たった。
貘の力故か、察するのは聖くんの特技だ。
私は隠しきれず、大学の女の子たちに嫉妬していることを話した。
そんな甘い言葉をささやかれたら、もうダメだ。
完全に、骨抜きにされてしまっている。
私は両手で顔を覆った。
これから何十年、何百年と続いていく関係を、ちょっと不安に思っていたのは私だけだったらしい。
ねだられるように言われたら、手を外さないわけにはいかない。
言うとおりにすると、軽いキスが唇に落ちてきた。
【聖ルート・完】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!