夏、真っ只中。
太陽が眩しいし、汗ばむし、地面からは跳ね返るような暑さを感じるけれど、心は解放感に浸っている。
夏休み前最後の登校日とあって、今日は午前中で終わり。
高校からの帰り道、私は空に向かって大きく叫んだ。
長閑な田舎、周囲は山と海に囲まれた小さな村というのもあって、車はおろか、人通りすら少ない。
だから、叫ぶ私を変な目で見る人もいない。
ただ、隣や後ろでくすくすと笑う声や、呆れる声、賛同する声は聞こえた。
三者三様に、彼らは言う。
私は彼らを振り返り、照れを誤魔化すように笑った。
彼らは顔を見合わせ、首を横に振った。
これもいつものパターンで、夏はみんなでのんびり過ごすのが恒例になっている。
三人とも近所に住んでいて、生まれた時からずっと一緒にいる私の幼馴染みだ。
同い年の白夜くんは、ちょっと受け身で控えめなところはあるけれど、優しくて、頭も良い。
ひとつ上の惟月先輩は、普段から全然素直じゃないけど、なんだかんだみんなのことを気に掛けてくれる。
ひとつ下の聖くんは、普段から自由奔放でのんびりしているのに、本気を出すととても優秀な子。
私の兄・御堂夏祈は、この村の観光名所である御堂神社の宮司を務める。
兄も私も、代々神社を管理する御堂家の生まれだ。
両親をおよそ十年前に亡くし、その後兄は必死の思いで私を育てながら働き、神職の資格を取って神社を守り抜いた。
そのお礼と言ってはなんだけれども、夏休みには幼馴染みたちと一緒に、観光客で溢れる神社を手伝うのだ。
その幼馴染みには、この三人の他に、もうひとり――。
通りかかった一台の車が車道の端に停まり、下げられた窓から最後の幼馴染みが顔を出す。
彼は、このメンバーの中で、唯一成人している大学生。
偉そうにしていることも多い一方で、なぜか面倒見もいいというギャップがある。
惟月先輩がしかめ面をすると、渉兄ちゃんは作り笑顔を浮かべた。
嬉々として先に乗り込む聖くんに続きながら、白夜くんが気遣わしげに言う。
こんなやりとりは、日常茶飯事。
他愛のないじゃれ合いのひとつだ。
私は笑って、惟月先輩の背中を押した。
少し窮屈だけど、五人を乗せた車はゆっくりと発進した。
それから、この夏やりたいことについて、話に花が咲く。
いつまで、この五人で過ごす日々は続くのだろう。
いずれ私たちも大人になって、それぞれの道に進んでいくのだと思うと、少し切なくなる。
そんな感情を胸の奥にしまい込んで、私は家へと戻った。
基本的に休みなく働く兄は、こうしてたまに早退してくることがある。
靴を脱ごうとしたところで、奥から足音が聞こえ、兄が顔を出した。
兄の顔は、にこやかなのにどこか神妙で――これから何かがあるんだと思わせるには充分だった。
【第2話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!