思わず言いかけた言葉を飲み込んだ。
しかしながら、間に合わなかったらしい。
くだらない押し問答の果てに、私は絶対に認めなかった。
惟月先輩のプライドを守れたかどうかは、自信がないけれど。
彼は彼で、深く溜め息をついて、拗ねたように視線を落とす。
見せたくなかった理由は、それだったらしい。
あやかしとして、他のみんなと比べてはコンプレックスに感じていたのだ。
見た目のかわいらしさから女の子に間違えられることも多かったし、格好良さや男らしさに憧れるのだろう。
でも、そんなことは単なる〝個性の違い〟に過ぎない。
惟月先輩は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、次に泣きそうな顔になったかと思えば、自嘲気味に笑って、最後には赤面した。
ものすごい百面相を見た気分だ。
急に鼻をつままれたけれど、すぐに解放された。
どうやら、惟月先輩の照れ隠しに巻き込まれただけらしい。
そうツンとしながら言うのは、いつもの惟月先輩だ。
少しは彼のコンプレックスが軽くなったようで、私も嬉しかった。
何を、と聞く前に、先輩は一度家を出て行った。
それから十分と少しして、腕に何かを抱えて帰ってくる。
裁縫セットと、布地や綿がたくさん詰められた鞄だった。
先輩は簡単な型紙を手書きで作り、それに合わせて布を切って、縫い合わせ綿を詰め、ボタンを留めて、あっという間に兎のぬいぐるみを一体、作り終えてしまった。
私も教えてもらうままに真似して作ったのだけれど、なんとも歪な形の兎にしかならず、自分の不器用さを呪う。
それから、夕方にはふたりでお月見用の団子を作り終え、夜にはお月見を始めた。
兄は満月の神事のため、まだ帰ってきていない。
綺麗な形の兎のぬいぐるみは、先輩の気持ちとなって私の元へとやってきた。
そう言いながらも、惟月先輩の目はとても優しかった。
魔除けはもう、三つ目だ。
思いの数だけ受け取ってしまうなんて、贅沢だろうか。
ついそんなことを言うと、惟月先輩が大きく肩を動かした。
やっぱり、こうなると白夜くんと渉兄ちゃんには張り合いたいものらしい。
惟月先輩はイライラしながらそう言ったけれど。
ふたりして、恥ずかしさで息が詰まりそうだった。
【第19話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!