兄は片手で両目を覆い、泣くのを堪えている。
もう、場全体が混乱していた。
突然、私の花婿候補だとか言われて、三年後には結婚するかもしれないなんて、彼らも承諾しないだろう。
四人がそれぞれに素敵な人だと分かっているからこそ、彼らからひとりを選ぶだなんて畏れ多い。
それに、私は立場上仕方ないとはいえ、大人たちが勝手に決めたことに彼らまで従う必要はない。
そう思うのには、みんなにはこの話を断って流して欲しいという私の願望も、少し混ざっている気がした。
私が四人を疑問の目で見つめると、白夜くんは頬を赤らめ、渉兄ちゃんは頭を掻き、聖くんはへらっと笑って誤魔化した。
たったひとり、惟月先輩だけが口を開く。
腕を組み、そっぽを向いて話す彼の言葉に、私はショックを受けていた。
望まれているのは私ではなく、力や名誉だ。
そこは割り切らなければいけないはずなのに、せめて人間として好いてくれていたらと、内心期待してしまったのだ。
小さい時から一緒にいた彼らとの関係は、この程度のものだったのか。
私の問いに、白夜くんが慌てたように弁明した。
普段は大人しい彼が、ここまで饒舌になるのは珍しい。
継いで、渉兄ちゃんも気まずそうに切り出す。
ふたりの言葉には戸惑いも浮かんでいた。
彼ら自身も、どうして私の傍にいたのか、分かっていない様子だ。
兄の言葉に、身震いした。
平穏無事に生きてこられたのは、みんなのおかげ。
知らないところで私は守られていたらしい。
聖くんがにこにこしながら平然と言う。
私と兄はぎょっとして仰け反った。
惟月先輩が聖くんを諫める傍らで、私は顔を赤くしていた。
白夜くんが兄の背中を撫で、慰めと感謝の言葉を繋ぐ。
これまで、兄がどれだけ苦労したのか、私は知っているつもりだ。
ここでわがままを言って掟を拒否することは、また兄を困らせることになってしまう。
それだけは、本意ではない。
逃れられない掟ならば、しぶしぶ受け入れるより、快く受け入れた方がいい。
まだ混乱しているというのに、私は無意識のうちに兄の手を取って微笑んでいた。
【第5話へ続く】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。