第4話

なぜか乗り気らしい
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2020/09/09 04:00

兄は片手で両目を覆い、泣くのを堪えている。


もう、場全体が混乱していた。
あなた

そ、そんな話、みんなも受け入れるはずないよ……!


突然、私の花婿候補だとか言われて、三年後には結婚するかもしれないなんて、彼らも承諾しないだろう。


四人がそれぞれに素敵な人だと分かっているからこそ、彼らからひとりを選ぶだなんて畏れ多い。


それに、私は立場上仕方ないとはいえ、大人たちが勝手に決めたことに彼らまで従う必要はない。


そう思うのには、みんなにはこの話を断って流して欲しいという私の願望も、少し混ざっている気がした。
御堂 夏祈
御堂 夏祈
その心配はないよ。
四人とも乗り気だから、ここに来ているわけで
あなた

へっ……乗り気?
どうして?


私が四人を疑問の目で見つめると、白夜くんは頬を赤らめ、渉兄ちゃんは頭を掻き、聖くんはへらっと笑って誤魔化した。


たったひとり、惟月先輩だけが口を開く。
大峰 惟月
大峰 惟月
神に愛された子を嫁に迎え入れるのは、僕たち一族にとっては願ってもない栄誉だから。
望まない理由がない
あなた

……!


腕を組み、そっぽを向いて話す彼の言葉に、私はショックを受けていた。


望まれているのは私ではなく、力や名誉だ。


そこは割り切らなければいけないはずなのに、せめて人間として好いてくれていたらと、内心期待してしまったのだ。


小さい時から一緒にいた彼らとの関係は、この程度のものだったのか。
あなた

そのためだけに、今まで私と一緒にいたの……?

大峰 惟月
大峰 惟月
はあ?
葛葉 白夜
葛葉 白夜
ち、違うよ。
惟月くんが言葉足らずで、ごめん。
俺たちも、花婿候補に決定したことを聞いて驚いたし、最近知ったんだ。
だから、花嫁にすることが目的であなたに近づいたわけじゃない。
……信じてくれないかな?

私の問いに、白夜くんが慌てたように弁明した。


普段は大人しい彼が、ここまで饒舌じょうぜつになるのは珍しい。


継いで、渉兄ちゃんも気まずそうに切り出す。
廣内 渉
廣内 渉
ずっとあなたの近くにいたのは……その、あれだ。
なんとなく、引っ張られる感じがしたんだ
葛葉 白夜
葛葉 白夜
そう、それ。
惹きつけられるって言うのかな。
守らなきゃって思って……。
あなたに近づいてくる変なやつを、追い払ったりはしてた
あなた

惹きつけ……?
追い払う……?


ふたりの言葉には戸惑いも浮かんでいた。


彼ら自身も、どうして私の傍にいたのか、分かっていない様子だ。
御堂 夏祈
御堂 夏祈
……あやかしは、自然と神の力に引き寄せられるものだから、無理もない。
それに、あなたが気付いていないだけで、彼らに守ってもらうことは多かったはずだ
あなた

え?

御堂 夏祈
御堂 夏祈
彼ら以外にも、掟を知らない者、知っているけど無視してあなたを花嫁にしようと考えるやつはたくさんいる。
今まで何の被害もなかったのは、いつも彼らが一緒だったからだ
あなた

…………


兄の言葉に、身震いした。


平穏無事に生きてこられたのは、みんなのおかげ。


知らないところで私は守られていたらしい。
宝来 聖
宝来 聖
まあまあ。
とにかく掟のことは関係なく、僕はいつかお姉ちゃんにプロポーズしてたと思うよ
あなた

ぷ、プロポーズ!?


聖くんがにこにこしながら平然と言う。


私と兄はぎょっとして仰け反った。
宝来 聖
宝来 聖
うん。
絶対お嫁さんにしたいもん
大峰 惟月
大峰 惟月
聖、自分だけいいように抜け駆けするな
宝来 聖
宝来 聖
惟月にぃが口下手なのがいけないんでしょ~

惟月先輩が聖くんを諫める傍らで、私は顔を赤くしていた。
御堂 夏祈
御堂 夏祈
そういうのは俺がいないところでやってくれ……。
本当はこんな話をすること自体が嫌なんだ。
大事な妹を、嫁に出したくない!
あなた

お兄ちゃん……

葛葉 白夜
葛葉 白夜
夏祈さん……。
あの、候補に選んでもらえて嬉しいです。
俺、精一杯頑張ります

白夜くんが兄の背中を撫で、慰めと感謝の言葉を繋ぐ。
あなた

(お兄ちゃんも断腸の思いだったんだ……)


これまで、兄がどれだけ苦労したのか、私は知っているつもりだ。


ここでわがままを言って掟を拒否することは、また兄を困らせることになってしまう。


それだけは、本意ではない。
あなた

(受け入れるべき、だよね?)


逃れられない掟ならば、しぶしぶ受け入れるより、快く受け入れた方がいい。


まだ混乱しているというのに、私は無意識のうちに兄の手を取って微笑んでいた。


【第5話へ続く】

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