兄が見せてくれたイベント表には、この夏休みの間、四人全員と一緒に過ごす日だったり、それぞれと過ごす日だったりがバランスよく散りばめられている。
いつの間に予定を聞いたのかと思ったら、そういうことだったらしい。
真面目で用意周到な兄らしく、再び笑いが零れる。
私に表を手渡してコーヒーの準備を始める兄は、どこか寂しそうだった。
せっかく作ってくれたのに使わないのも悪いし、使わないとなれば、自分でもこの先どうやって彼らと過ごしたらいいか分からない。
兄がこちらを振り返り、穏やかだけど力なく笑った。
***
自室に戻り、扇風機をつけ、予定表をもう一度見つめる。
神社での手伝いがなくなってしまったので、私の予定といえば学校の課題をやるくらいだ。
巫女を目指す以上、勉強もそれなりにしなければいけないけれど、嫁入りのことも真剣に考えていかなければならない。
最初のイベントは、明後日――【みんなで海!】と書かれている。
この村は田舎だけど、周囲を囲む山や海はとても美しい。
海は特に、遠方からサーフィンのためにやってくる人も多くて、神社と同じくこの村の観光名所だ。
どんな顔で、どんな態度で、みんなと接すればいいのだろう。
今まで通りでいいような、それじゃいけないような、複雑な気持ちだ。
海の後の予定も一通り見てみると、【みんなでバーベキュー】に【勉強会】が複数、【キャンプ(ただし兄同伴!)】と書いてある。
きっと、兄は精一杯譲歩したのだろう。
本音は、私を嫁にやりたくないと言っていたのだから。
まだ彼らが人間じゃないなんて、信じられない。
そのくらい自然に生活の中に溶け込んでいたし、それを知って怖いとも思わない。
ただ、彼らが彼らじゃなくなるような気がして、戸惑っているのだ。
ひとりでうだうだ悩んでいても、何も解決しない。
私は私なりに、この夏を楽しんでみよう。
そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった。
スマートフォンを手に取り、幼馴染みグループのチャットを起動する。
【明後日、海に行ける人!】と、私が誘いの文面を打つと、四人からは一分も経たずに反応が返ってきた。
急な誘いなのに、意外にも全員大丈夫という返事だった。
よくよく聞いてみると、みんな既に兄からのイベント表をスマホのデータで受け取っていたらしい。
兄の行動力には、驚くばかりだ。
一方で、みんなとのやりとりは今までと変わらなくて、少しだけほっとする。
海行きが決まったならと、早速水着を買いに出かけることにした。
【第7話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。