第6話

迷いの夏休み、開始
6,920
2020/09/23 04:00
兄が見せてくれたイベント表には、この夏休みの間、四人全員と一緒に過ごす日だったり、それぞれと過ごす日だったりがバランスよく散りばめられている。
あなた

み、みんなにも予定があるんじゃないかな?
それに、毎年夏休みは全員で神社の手伝いをしてるし……。
みんなもそのつもりでいるよ

御堂 夏祈
御堂 夏祈
ああ、もう彼らの予定は昨日のうちに聞いてある。
それと照らし合わせて問題ない範囲で作った。
神社の手伝いも今年は不要だし、あなたが好きなように、有意義に過ごしなさい
あなた

う、うん……


いつの間に予定を聞いたのかと思ったら、そういうことだったらしい。


真面目で用意周到な兄らしく、再び笑いが零れる。
御堂 夏祈
御堂 夏祈
使うかどうかは任せるよ。
あなたが気持ちを落ち着ける時間も必要だろうし

私に表を手渡してコーヒーの準備を始める兄は、どこか寂しそうだった。
あなた

(お兄ちゃんは、どんな思いでこれを作ったんだろう)


せっかく作ってくれたのに使わないのも悪いし、使わないとなれば、自分でもこの先どうやって彼らと過ごしたらいいか分からない。
あなた

ありがとう。
使わせてもらうね

御堂 夏祈
御堂 夏祈
……どういたしまして

兄がこちらを振り返り、穏やかだけど力なく笑った。



***



自室に戻り、扇風機をつけ、予定表をもう一度見つめる。


神社での手伝いがなくなってしまったので、私の予定といえば学校の課題をやるくらいだ。


巫女を目指す以上、勉強もそれなりにしなければいけないけれど、嫁入りのことも真剣に考えていかなければならない。
あなた

(えーっと、最初は確か……)


最初のイベントは、明後日――【みんなで海!】と書かれている。


この村は田舎だけど、周囲を囲む山や海はとても美しい。


海は特に、遠方からサーフィンのためにやってくる人も多くて、神社と同じくこの村の観光名所だ。
あなた

(海は毎年みんなで遊びに行ってるし、これくらいならいつも通り楽しいだろうな)


どんな顔で、どんな態度で、みんなと接すればいいのだろう。


今まで通りでいいような、それじゃいけないような、複雑な気持ちだ。


海の後の予定も一通り見てみると、【みんなでバーベキュー】に【勉強会】が複数、【キャンプ(ただし兄同伴!)】と書いてある。
あなた

(お兄ちゃんらしく、健全というかなんというか……)


きっと、兄は精一杯譲歩したのだろう。


本音は、私を嫁にやりたくないと言っていたのだから。
あなた

(あやかしの……お嫁さん、か)


まだ彼らが人間じゃないなんて、信じられない。


そのくらい自然に生活の中に溶け込んでいたし、それを知って怖いとも思わない。


ただ、彼らが彼らじゃなくなるような気がして、戸惑っているのだ。
あなた

(……去年と一昨年は同じ水着だったし、新調しようかな)


ひとりでうだうだ悩んでいても、何も解決しない。


私は私なりに、この夏を楽しんでみよう。


そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった。


スマートフォンを手に取り、幼馴染みグループのチャットを起動する。


【明後日、海に行ける人!】と、私が誘いの文面を打つと、四人からは一分も経たずに反応が返ってきた。
葛葉 白夜
葛葉 白夜
【行く】
廣内 渉
廣内 渉
【運転手くらいならしてやってもいいぞ】
大峰 惟月
大峰 惟月
【行ってあげなくもないけど】
宝来 聖
宝来 聖
【僕、疲れたらパラソルのとこで寝ててもいい? それなら行く】

急な誘いなのに、意外にも全員大丈夫という返事だった。


よくよく聞いてみると、みんな既に兄からのイベント表をスマホのデータで受け取っていたらしい。
あなた

(早っ! というかみんな、もうお兄ちゃんと連絡取り合ってるんだ!?)


兄の行動力には、驚くばかりだ。


一方で、みんなとのやりとりは今までと変わらなくて、少しだけほっとする。


海行きが決まったならと、早速水着を買いに出かけることにした。


【第7話へ続く】

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