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第11話

本来の姿
海水浴から二日後。


日焼けでひりひりとする首筋に濡れたタオルを掛けたまま、私は課題の問題集とにらめっこしていた。


今日は、私の家で勉強会をする日。


勉強を頑張ったら、夜は兄がご褒美にバーベキューを準備してくれる。


最初は乗り気ではなかった聖くんも、それを知った途端に参加すると言って、今は凄まじいスピードで問題を解いている。
大峰 惟月
大峰 惟月
一年の後輩から、あんた授業中ほとんど寝てるって聞いたけど、いつ勉強してんの?

惟月先輩はぎょっとして、聖くんの問題集を覗き込んだ。
宝来 聖
宝来 聖
僕レベルになるとね、寝ながら授業を聞けるんだよ~

聖くんは得意気に笑い、本当か嘘か分からないことを言った。
あなた

(学年にひとりは、そういう子いるよね……)


惟月先輩は、昔からちょっと勉強は苦手だ。


さぼっているわけではないのだけれど、苦手意識が強いからか、伸びないのをコンプレックスに感じているようだ。


白夜くんは、学年トップクラスの成績。


私も勉強は苦手な部類なので、いつも丁寧に、優しく教えてもらって助かっている。
葛葉 白夜
葛葉 白夜
この過去分詞はどこに係ってるか分かる?
あなた

えっと……これ?

葛葉 白夜
葛葉 白夜
そう。
あとはスラッシュを入れて部分部分を組み立てて……
あなた

あ、できた……!
白夜くんは本当に教えるのが上手だね

葛葉 白夜
葛葉 白夜
……そ、そうかな

照れくさそうに白夜くんは笑う。


いつも真面目に授業を受けているのを知っているし、家でもきちんと勉強しているのだろう。
廣内 渉
廣内 渉
惟月、白夜のあれは抜け駆けになんねえの……?
大峰 惟月
大峰 惟月
仕方ないでしょ? いつも教えてるのは白夜だし。
僕らにはあのレベルのは無理
廣内 渉
廣内 渉
まあ、そうだけどよ。
で、おまえ、さっきから進んでねえぞ
大峰 惟月
大峰 惟月
うっさいな、分かってるよ。
そっちも大学のレポートやりなよね

渉兄ちゃんと惟月先輩が、小さい声で何やら話している。
あなた

(勉強会とか、白夜くん以外としたことなかったけど、結構いいかも)


学年は違っても、互いに頑張っているところを見られるのは、励みになるものだ。


こういう予定を組んでくれた兄に、感謝した。


そうして時間は過ぎ、昼食を挟んで夕方へとさしかかってきた。


宝来 聖
宝来 聖
眠い~。
お姉ちゃん、膝貸して~
あなた

いいけど、邪魔しないでね

宝来 聖
宝来 聖
はーい

聖くんは、課題の問題集をほとんど解き終わってしまった。


集中力を使い果たしたのか、私の膝に頭を乗せてすやすやと眠り始める。
廣内 渉
廣内 渉
惟月、聖のあれも抜け駆けじゃねえの……?
大峰 惟月
大峰 惟月
聖のは昔からでしょ。
渉もやりたきゃやれば?
廣内 渉
廣内 渉
無茶言うなよ……。
で、そこ公式間違ってるぞ
大峰 惟月
大峰 惟月
はあ!? もう最後まで式書いたんだけど!

惟月先輩は頭を抱えながら必死に頑張っているけれど、解けないところは渉兄ちゃんに助けてもらいながらだ。


なかなか進まずに悔しそうなところを見ると、応援したくなる。
あなた

(これからも、こういうことを続けられたらいいのに……)


そう思う部分もある一方で、誰しも子どものままではいられないことは分かっている。


成人と同時に嫁入り――大人になるとは、時に残酷だ。



***



何度目かの休憩時間。


もう、みんなの集中力は枯渇し始めていた。
あなた

あのさ……。
みんなの本来の姿、あやかしの姿って言うのかな。
それ、もう一度ちゃんと知りたいんだけど


先日、お兄ちゃんから掟とあやかしのことについて一通り説明を受けたけれど、まだ全部はよく分かっていない。


私の言葉に、白夜くんと渉兄ちゃん、それから惟月先輩は気まずそうに顔を見合わせた。


その視線は、昼寝をしたままの聖くんへと注がれる。


重い沈黙が怖くなってしまい、私は慌てて両手を振った。
あなた

見せたくなかったら、無理しなくていいからね……?
みんなこと知ってるつもりでいたけど、海でのこともあって、私まだ全然知らないなって思って


踏み込んではいけないところに、踏み込んでしまったのだろうか。
葛葉 白夜
葛葉 白夜
俺たちは元の姿に戻ってもいいけど……
廣内 渉
廣内 渉
まあ、『完全に人間じゃない』からな。
びっくりするだろ

白夜くんと渉兄ちゃんはそう言いつつも乗り気ではない様子だ。
大峰 惟月
大峰 惟月
絶対、僕のことかわいいって言うだろうから嫌
あなた

あはは……。
玉兎って、月の兎だもんね


惟月先輩ははっきりと拒否した。


確かに、彼が兎に変化したら、かわいいと言ってしまいそうだ。
大峰 惟月
大峰 惟月
それと、さ。
聖も……自分から見せたいって言うまでは待ってやってよ
あなた

え?
……うん


惟月先輩は、最後にそう付け加えた。


彼らの言葉から察するに、彼らが長らく正体を語らなかったのには、予測できない理由があるのだろう。


眠ったままの聖くんを気遣う惟月先輩の態度に目に見えない絆を感じて、なぜか私が嬉しかった。


【第12話へ続く】