第15話
廣内渉との一日
あれから数回の勉強会を挟んで、渉兄ちゃんと過ごす日がやってきた。
「迎えに行くから家で待ってろ」と言われ、そわそわしながら約束の時間を待つ。
しかし、それよりも前に、渉兄ちゃんから電話が掛かってきた。
いつも誰かに頼りにされていて、自慢の幼馴染み。
快く送りだそうとした時、ひとつ提案を思いついた。
心なしか、渉兄ちゃんの声のトーンが上がったように感じた。
***
土産物屋に行ってみると、おばあさんがひとりで大変そうな状況だった。
今は観光シーズン中ということもあり、外国人客も多く、対応が追いついていないようだ。
渉兄ちゃんの顔を見るなり、おばあさんの顔が和らぐ。
それからは、怒濤の来客に三人で対応した。
拙い英語だけれど、カタコトと身振り手振りでなんとか伝えれば、分かってくれるものだ。
一方で、渉兄ちゃんは慣れたように談笑しながら、外国人客に対応している。
こんなことができるだなんて、知らなかった。
憧れと尊敬と同時に、ちょっと格好いいと思ってしまう。
なんとか大きなトラブルもなく、土産物屋は無事に一日の営業を終えた。
おばあさんは何度も頭を下げ、封筒に日当と思われるお金を入れて渡してきた。
突然の質問に、私は面食らった。
いつの間に、私が神社の生まれだと気付いたのだろうか。
それに、渉兄ちゃんが花婿候補だということも、この村で知っている人は限られているはずだ。
渉兄ちゃんが苦笑いしながら聞いた。
掟の話をしていたと思ったら、いつの間にか褒められていた。
照れくさくて頬を手で押さえていると、渉兄ちゃんまでも耳を赤くしていた。
***
それから数日間、店主のおじいさんが回復するまで、渉兄ちゃんとふたりでお店の手伝いをした。
老夫婦にはとても感謝されたし、私も貴重な経験ができた。
最終日、そんなことをおばあさんから耳打ちされる。
けれど、はっきりと頷くことはできなくて、曖昧に笑って濁した。
【第16話へ続く】