誰も、何も言わなかった。
水を打ったように静かになった彼らを置いて、私は財布を手に取り、海の家に向かった。
ちょっとだけ泣きそうになった目を拭い、みんなの好きな飲み物でも買って、謝ろうと思った。
白夜くんにはジンジャーエール、渉兄ちゃんと惟月先輩にはアイスコーヒー、聖くんにはマンゴージュース。
注文を待つ列に加わろうとすると、後ろから肩を軽く叩かれた。
誰か追いかけてきたのかと思ってドキリとする。
振り返ると、知り合いでもない男性三人が私を見下ろしていた。
観光客だろうか。
これが世間一般でいう、ナンパというやつなのか。
こんな田舎で、毎年海に来ているというのに、初めての経験だ。
このまま連れて戻って、友達がみんな男だと分かったら、この人たちはどんな反応をするのだろう。
わずかにそんな好奇心もあったけれど、断る方が無難だ。
事実を言っても信じてもらえず、心なしか距離を詰められてきている気がする。
もう関わらないようにしようと、彼らの言葉を無視して歩き出す。
男のひとりが私の肩に手を置いた瞬間。
彼は悲鳴を上げて、その手をすぐに引っ込めた。
何事かともう一度振り返ると、男の手からは火が上がっている。
しかし、すぐに消えた。
呆然とする私を庇うように、彼らとの間に誰かが立った。
白夜くんだ。
さっき渉兄ちゃんに怒った時よりも更に低い、怒気を含んだ声で言った。
男の手から火が上がったのも、白夜くんのあやかしの力だ。
ナンパの三人組は、顔を見合わせそそくさと逃げていった。
驚きはしたけれど、助けてもらえた安堵感の方が強かった。
私を振り返った白夜くんは、もういつもの白夜くんで。
もう、みんなのことは知り尽くしていたと思い込んでいた。
でも、あやかしだったことも含め、まだまだ知らないことがあるらしい。
渉兄ちゃんと惟月先輩、聖くんまでいつの間にか追いかけてきていた。
何の話をしているのか分からず首を傾げる。
みんな以外にもあやかしはたくさんいて、中には掟を無視して私を狙う者もいるのだと、一昨日教えてもらったばかりだ。
今までも、知らないうちにこうやって守られていたんだ。
どれだけ大事にされているのか、私は分かっていなかった。
【第10話へ続く】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。