日が暮れ始め、勉強会も終盤にさしかかった頃。
兄が仕事から帰宅すると、聖くんは慌てて私の膝から飛び起きた。
小突き合っているふたりも一緒に、みんなでバーベキューの準備を手伝うことになった。
兄の問いに、まずまずと答えられたのは五人中、四人だけ。
手こずってばかりで、あまり課題が進まなかった惟月先輩は、白夜くんや聖くんとの差に落ち込み気味だ。
惟月先輩のことだ。
みんなに格好悪いところは見せたくない、という気持ちがあっただろう。
少しでも前向きになってほしくて声をかけたけれど、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
惟月先輩がもごもごと言いかけたところで、白夜くんが真顔で割り込んできた。
先輩の顔が、再び真っ赤になる。
庭に道具一式を準備し、兄が炭に火を点けると、あっという間にバーベキューの始まりだ。
朝の内に兄と一緒に仕込んでいた材料を運ぶと、いつの間にかおにぎりに混ざっていなり寿司が増えている。
白夜くんが油揚げを好きなのはみんなが知っているけれど、ここにきて私もその理由に気がついた。
やっぱり、まだまだ私は彼らのことを知らない。
白夜くんは肉そっちのけでいなり寿司を食べてるし、渉兄ちゃんは私にどんどん焼けた具材を渡してくるし、惟月先輩は眠そうにしている聖くんを起こして、無理矢理食べさせている。
いつか、みんなと離れ離れになっても、きっとこの経験が私の支えになる。
寂しい思いはあるけれど、彼らを自分の花婿候補として、しっかり見ていこうとようやく決意できた。
兄からそんな話がされると、楽しんでいた三人も、眠そうにしていた聖くんも、急に背筋を伸ばした。
海でもそうだったけれど、みんな兄が絡むと、途端に緊張するような気がする。
御堂家の当主である兄に、目に見えない強い力があると知ったのは、この時が初めてだった。
【第13話へ続く】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。