また時は過ぎて、満月の日がやってきた。
今日は惟月先輩と過ごすことになっている。
この日のために、惟月先輩は必死で学校の課題を終わらせた、というのを渉兄ちゃんから聞いた。
掃除機をかけていると、惟月先輩がやってきた。
満月の日はいつもうちでお月見をしているが、今日はどうなのだろうか。
それなら毎月やってるのと変わらないけれど、変化のなさを望むのも、惟月先輩らしいと思う。
笑った私を見て、惟月先輩はかわいい顔を膨らませた。
今思いついたであろう提案を、付け加えてくる。
素直じゃない彼には、こちらもたまに意地悪したくなることがあって。
彼だけ、惟月先輩と呼んでいるのは、互いに中学に上がった頃にそう呼べと言われたからだ。
昔は、渉兄ちゃんと同じように呼んでいた。
なぜ彼がそう言い始めたのか、理由は知らない。
撤回したかと思いきや、冗談だと伝えたら譲歩したり、本当にいつも素直じゃない。
つい、小さな笑みが零れた。
駄目元でそう頼んでみると、惟月先輩は顔を強張らせた。
あれだけ嫌だと言っていたのだから、叶えられなくても仕方ない。
しばらく左右に目を泳がせて、惟月先輩は観念したように項垂れる。
そういうところが、惟月先輩らしいなと思う。
素直じゃないけれど、真っ直ぐでいたいという気持ちは強い。
ふたりきりの広間の中央で、惟月先輩は一瞬にして兎の耳を出した。
ピンと伸びた耳を予想していたのだけれど、それに反して髪の隙間からは白くて長い垂れ耳が見えてい
る。
よく見たら尻尾も丸くてふわふわしたものが生えているようで、普段の彼の態度とのギャップに、頭を殴られたような衝撃が走る。
中性的な見た目の彼に、兎の姿はとても似合っていて、不覚にもキュンとしてしまった。
【第18話に続く】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。