私が佐野家の長女として生まれたときには、兄は真一郎ただ一人だった。
そして、私より少しあとに産まれた万次郎という弟が一人。
そもそもは三人兄妹だったのだ
その時はまだ母がいて、すくすくと大きく成長した。
ただ、2歳の時に母は亡くなった。病気だった。
悲しかった。いっぱい泣いたけど慰めてくれたのは当時12歳の小学生だった真一郎。
私よりも母との思い出があったであろう真一郎は、泣きじゃくる私と万次郎の背中を擦った。
あぁ…この人は本当にお兄ちゃんだ
って、当時の私は思ったかもしれないし、おもってないかもしれない。
父は母がなくなってから、遊び歩くようになった。元々、女好きだったらしい。母がいなくなったことでストッパーが無くなったのだろう。
だから、私と万次郎にとって真一郎は兄であり父だった
おじいちゃんは父に怒っていたけど、父はやめないし。
だから、もういいよ。とおじいちゃんに言ってギュッと抱きついた。
父はそれから数年後に事故で死んだ。どうしようもない人間があっさりと死んだ。
ほとんど家に帰ってこない人だったから、死んだと聞いても別に泣きはしなかった。
だって、私にとっての父はおじいちゃんと真一郎だから
そんなろくでもない父親は他所の人との間に子供を作った。
いや、不倫ではない
というか、知らない間に父は再婚していたらしい
そして、その相手の女が父との間にできた子供を私たちの元に預けた。否、捨てたのだ
黒川エマ
現在の佐野エマ
最初は私たちに懐いてくれなくて、逆に嫌われてて、どうしようか困った困ったと思っていた。
「エマ~、一緒におやつ食べよ!」
それでも私は新しくできた妹と遊びたくてしょうがなくて、嫌がられているのに話しかけ続けた。万次郎も道連れにしながら。
「………ん」
しつこさに嫌気がさしたのかちょっとだけ返事をしてくれるようになったのには感無量
そして、その日は場地も一緒だった
黙っておやつ食べて……たのは私とエマだけ。
万次郎と場地はいつも通り口喧嘩を始める。脳みそのレベル同じなんだもん。喧嘩も終わりやしない。
「エマは私がお姉ちゃんになるのは嫌?」
「………」
「私はエマと仲良くしたいな。妹だし」
「……ママが迎えに来るって……」
「うん……」
「迎えに来るって言ったの………」
だから、いつかはいなくなるんだよ?とそう言いたいのだろうなと当時の私は察した。
エマも、母親が迎えに来ることはないとそのとき勘づいていたらしい。それでも、信じたくなかったから。
「そっか………じゃあ、迎えに来るまで姉でいても良い?」
「………なんで?」
「エマはね~可愛いから一緒に遊びたいな。私、妹がほしかったの。弟はこんなだし。真一郎はあれだし。
周りにね女の子いないんだ~
一緒に遊べる子がほしい。おしゃべりしたり、髪結ったり、一緒になにか作ったり。そういうこと、私としない?
エマは……私がお姉ちゃんじゃ、嫌?」
ジッと瞳を見つめれば、じわじわと涙がたまっていくのが分かった。
そんなエマをギュッと抱き締めて背中を擦る。
「エマはよく頑張ってるよ。小さいからだで偉いね………」
私よりも1つ下
なのに、私よりも辛い過去を持っている
大事な大事な私の妹
泣き止んだエマが私のことをあなたねぇと呼んでくれたときには私の方が泣きそうになった。
そして、万次郎はズルい!!と叫んで、エマと同じ外国っぽい名前のマイキーにする!と言い出した。
あなたも今日からマイキーって呼べ!と言われたけれど、呼ばない。
マイキーと改名した万次郎を見てエマが嬉しそうにしてた
それに対する嫉妬とかじゃないから。
全然違うから
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。