第70話

すごい良い子だ
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2021/10/05 10:58

外周のランニングを終えて、学校に戻る途中。
チラッと見えた3人組の姿。明らかに嫌がっている女の子と腕を引いてどこかに無理矢理連れていこうとしている男二人。

放ってはおけなくてその間に割ってはいった。

と、いうか…

入ろうとした瞬間、たぶん女の子の方がキレて殴りかかった。その拳を手のひらで受け止めたんだけど、


痛いな?!!


じんじんと引かない痛みに、顔をしかめそうになるけど耐える。


何度か言葉を交わしても、引こうとしない男たちにどうしたもんかと。最終的に連れがいるんだけどって岩ちゃんたちの方を指差したら逃げていった。見た目はヤバそうな集団だから。俺のこと探してるらしくキョロキョロしてるけど。


岩ちゃんたちから視線をはずして、女の子の方に向けると目がバッチリ合った。



見たことのある黒のジャージに身を包んだ彼女は、両耳にピアスをつけ、髪は鮮やかなピンクゴールド。申し訳ないけど、真面目に部活をするような人間には見えなかった。おそらく、世間一般で不良と呼ばれる集団に属していそう。



「そのジャージ、烏野のバレー部?」



そう聞けば軽く目を見開いて、そうですと返事をした。


たんなる好奇心で「いつ入ったの?」と尋ねた瞬間、目の色が変わって、明らかに変な人を見る目になる。「こいつもナンパかよ……」と言いたげなその目に思わず笑ってしまった。



それから、岩ちゃんたちがやって来て何でか俺がナンパしたことになって、ギャーギャー騒ぐ。


マッキーが彼女の名前を聞けば、「佐野あなたです…」と不審そうに答えた姿にまた笑った。





「あの…部活行ってもいいですか…」



騒ぐ俺たちに気を使うような、少し小さめの声で聞かれたそれに「ごめんね!」と謝ろうとしたのに、マッキーに遮られた。しかも、俺のせいにされた!



「あなたちゃんまたね!」とそれしか言えなかったけど、それを聞いてわざわざ立ち止まり律儀に頭を下げる。しかも、きっと急いでいるのだろう小走りに駆けていく。


もう好感しかもてない




「可愛いな~、あなたちゃん」
「それな。及川の顔見ても靡かねぇもん」


マッキーとまっつんはほんとにひどいな?!


「容姿のわりに真面目だったし」

「それはマッキーもだと思う!」

「頭ピンクだしな」
「最初はどんなパリピだよって思った」


「うっせぇ!!」






「いいなー。あなたちゃんみたいなマネほしいわ」

「いや、マジそれな。ほんと、誰かさんのせいで……」

「マネほしかった~」


1年の時から言われ続けるそれに、もはや慣れてしまった。


「もう!ごめんってば!!」









今だじんじんと痛む手。

だけど、その代償として彼女に会えたならこんな痛みも安いもの

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