夕方だと言うのに太陽の日差しが無遠慮に照り付けるこの中庭で。
太陽光と同様に上目遣いをなんの遠慮もなくかましてくるこの先生。
ほんとに私の担任かな。うちのクラスメイトよりも幼く見えるのは錯覚?
カップル成立数秒後にいちゃつきを爆発させていた私達。落ち着いて周りを見てみると、
おじいさんおばあさん、はたまたさっきまで泣いてた子供達が好奇の目を向けている。
おばあさんおじいさんたちはいいなぁ若いもんは、なんて言ってるし、女の子たちはキャーキャー言ってるし。
…なんとなくだけど、私性別間違えられてる気がする。
だって、おじいさんはともかくお見舞いに来た男性陣から少し嫉妬混じりの目を向けられてるから。
これに気づいた以上こんなにいちゃついてたら何言われるか分かったもんじゃない、と私の腕の中で落ち着いている彼女から離れる。
なんで離れるの…みたいなしゅんとした表情で見つめてくるけど、流石に公共の場だし。
そんな可愛い顔しても無駄です。いやもちろんここが家だったら離れませんけど。
真っ赤な顔で私の後をついてくる彼女が愛くるしい。いや、愛くるしいでも足りないくらいのこう、わき上がってくるものがある。
ほんとに…私のものになったんだな。ものって言い方はアレだけど…やっぱり嬉しいもんは嬉しいや笑
明日もお見舞い来てくれるらしいし。今日くらいは短くても我慢しよ。
二人で手を繋いで、エレベーターに乗り込む。
私達二人しか乗ってなかったから、ちょっとだけいたずらしてやろうとその手を恋人繋ぎに変えるとまた顔を赤くして。
からかいがいがあるなぁなんて思いながら扉を見つめていると、私の頬に触れる柔らかいそれ。
…まじか……
予想外のミナ先生の行動に、流石の私も赤くなってしまう。
何するんですかと言う意味も込めて軽く隣を睨みつけると、柔らかいそれの持ち主も真っ赤になっている。
…ほんとに可愛い。今まで見てこれなかったこう言うところをこれから私だけが見れるのか。
心臓、鍛えないと生きていけないかもな。笑
なんやねん、なんて呑気に笑いながら私の背中に手を回す。
そんな先生の手が優しくて、温かくて。少しだけ病院生活に不安を持っていた私の心を知らず知らずのうちに癒してくれる。
そんなことも知らずに私の鎖骨の鼻を当ててスンスンと何かの匂いを嗅いでいる先生をどうしても帰したくない。
だってせっかくいい感じなのに今ここで帰らせたらこんな雰囲気が壊れそうなんだもん。
私の病院服の匂いを嗅いでいる彼女の艶のあるサラサラの髪に鼻をくっつけて私も彼女の匂いを嗅ぐ。
多分側から見たらまじで何してるのかわからないこの光景だけど、その意味のわからない光景で幸福感が満たされている。
ふと目に入った時計の長針は、今この時間が7時であることを示している。
なんならこのまま面会時間を使い切ってここにいてほしい。けどそうしたらこの人が家で仕事を終える時間がなくなる。
否が応でも私の少し下で鎖骨に額を擦り付けてる人を帰さなきゃならない。
…明日になれば面会時間なんてなくなるし、今日くらいは我慢するか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!