久々の日本語の授業を受けて、疲弊しきった脳みそと体を動かして私達の思い出の部屋と言っても過言ではないこの応接室へ来た。
七ヶ月前を思い返せば、少し笑みがこぼれるような懐かしさが込み上げてくる。
ここで倒れたのも、人生で初めて頬を引っぱたかれたのも、人を泣かせたのも全部懐かしくて、今では笑い話になるような話。
その思い出の中心にいつもいる人が、この部屋に居ない。
呼び出した癖に...なんて思いつつ、久しぶりのそのソファに座ってみれば廊下の方から足音が聞こえてきて。
なんか焦ってんなぁ...転ぶなよ〜
そう思った矢先、ずしゃーだかずさーだかよくわからない音が聞こえてきて。
急いで廊下に出てみれば私を呼び出した人がうつ伏せに倒れて資料をばらまいてる。
急いで立ち上がって、膝下のタイトスカートを叩いてから資料を集めずそのまま部屋へ入ろうとしているこの人。
資料をよくよく見てみれば、英語教師の癖に数学やら理科やら...全て高一の問題ばかりのもの。
この人...何するために呼び出したんだよ笑
二人で資料を拾い上げて、通りすがりの先生に大丈夫ですか〜なんて笑われながら応接室へ入る。
当然、鍵をかけて。
鍵をかけた途端に、私の座る3人がけソファに飛び込んできては横からあなただぁ...なんて言いながらもみくちゃにされて。
挨拶=ハグ
七ヶ月間のうちに頭に植え付けられた向こうの挨拶方式が仇となったのか、その事を伝えると突然骨が音を立てるほどに締め付けてきて。
一瞬呼吸困難になりかけるほどの圧と怒りを全身で感じとってから、その痛みから開放された。
咳き込みつつも隣の人の顔色を伺うと本気で泣きそうな顔してて。
え、この人こんなに涙脆かったっけ...?
ただ涙を引っ込ませようと、その場を和ませようとしただけなのに。
からかいが過ぎたのか、目の前の人の目の色が変わって形勢逆転。
ソファの端まで追いやられて、大切な物を振れるように優しく私の顔の輪郭をなぞって。
あまりの優しい表情に何も言えず、先生のその手の行先を視線で追っていると突然降ってくるのは甘すぎる程のフレンチキス。
予想もしていなかった控えめだった彼女の大胆なその行動に驚きを隠せなくて。
まぁ久しぶりだし...いいかな、なんて思いながらそれを受けるも少しづつ膨れ上がる欲。
待て待て待てとその肩を押し返すと意外にも大人しく引き下がってくれた。
一度顔に集中した熱は簡単には消えてくれなくて、多分今の私はりんごよりも真っ赤になってる気がする。
嬉しそうな顔で、もっかいしてあげると言ったせん...ミナが触れた先は、私の唇で。
さっきよりもなんだか色気の増したような瞳で見つめてくるから、私も...言い方はあれだけど、ムラっとしちゃって笑
別に、本気でするつもりはない。ここで声出されたらたまったもんじゃないし
伸びてきた手を引き寄せて、私の腕の中に閉じ込めてしまえばちょ、何するん?なんて間抜けな声を出す。
つー、と彼女の背中をなぞってみれば、なんにも変なことしてないのにひゃっ...なんてちょっと期待してますよみたいな声を出して。
はー...ここが学校じゃなかったらいいのに
結局、可愛らしいこの人をぐちゃぐちゃにできるのはもうちょっと先になりそうな予感。
まぁ...高校生のうちは、こんな感じの甘酸っぱい方がいいし
卒業してからそういう事してあげよ
それまで向こうが我慢できるかの話だけどね笑
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!