阿部side
いらっしゃい。
玄関を開け、そいつを招き入れる。
もう半年ほど前からそいつは金曜日に俺の家に訪ねるようになった。
入るね。とニコッと笑って慣れたようにリビングへ向かう。
今日もから揚げ作ったから、食べよう。と声をかけると、
大好物を目の前にキラキラと目を輝かせ、手洗ってくるねと言ってバタバタと駆けていった。
この時ばかりはまだ子どもだなって思える。
入ってきた時から、パフォーマンス中は大人びていたけど、最近では楽屋でも騒ぐことは少なくなっていた。
皆は急激に変化するあいつを心配したけど、当の本人は滝沢くんに大人っぽくしろって言われたしってかわした。
だけど俺はそんな理由じゃないって知ってた。
ラウールside
半年ほど前、僕は失恋した。
めめの事がずっと好きだった。
はっきりとは言ってないけど好意は隠していなかったし、めめも気づいていたと思う。
だけど、僕は弟のようにしか見られていなかった。
忘れもしない、雑誌の撮影で9人でいた時。
いつものように楽屋でめめの横に座ってた。
そしたら突然、発表があるんだけどって康二くんとめめが皆に言った。
そこからは地獄のような時間で、覚えていないけど、僕はとにかく笑顔でいることに努めた。
バレていなかったと思う。阿部ちゃん以外には。
阿部side
から揚げを頬張る姿を見ながら、俺はビールを飲む。
美味しいのって毎回不思議そうな顔で見るラウールをまだまだ子どもだなと笑うと、膨れっ面しながらまた1つから揚げを頬張る。
それもまた可愛くて、この瞬間が幸せで、だからこそなんで俺じゃダメなのかって、俺は泣きそうになる。
俺は康二と目黒が交際してる事を発表したあの日から、毎週金曜日ラウールを家に誘っている。
初めは食事を振る舞うだけだった。
とにかく傷ついているこいつを何とか笑顔にしたくて、俺の前では我慢して欲しくなくて。
だけど食事を数回重ねて気づいてしまった。自分の気持ちに。
そこからはなし崩し的に関係が始まった。
ウブなこいつのガードを解くのは容易かった。
ラウールside
俺をあいつの代わりだと思えよ。
阿部ちゃんのその言葉で、俺達は所謂セフレの関係になった。
行為中、俺は目隠しをされる。阿部ちゃんも声を出さないようにしてるから、余計めめに犯されている気がして、それが幸せかは分からないけど気がつけばやめられなくなっていた。
都合よく使っているのは分かってるけど、1度謝ったら聞こえるか聞こえないかくらい小さい声で、俺の為でもあるからって言われて、俺は黙って甘えることにした。
阿部side
食事が済んで、今日もまた俺はラウールの手を引いてベッドルームへと連れ込む。
服を脱がすのも、目隠しもされるがままなラウールの顔は既に期待で火照っていて色気が増す。
俺はその顔が何よりの着火剤で、ラウールの後ろを解かすのも程々に、キツい中にモノをねじ込む。
初めこそラウールは処女だったから、痛さで泣いていたけど、回数を重ねる毎に気持ちよさで泣くようになった。
淫乱になっていくにつれ、興奮するのはもちろんのことラウールをここまでしたのは目黒じゃなく俺なんだと優越感にも浸れた。
俺のそんな気持ちを露も知らず喘ぐこいつの鎖骨にそっとキスをする。
唇にしないのは少なからずある罪悪感からなのかもしれない。
ラウールside
阿部ちゃんはなんでも願いを叶えてくれる。
俺が奥がいいって言ったら、奥を突いてくれるし、もっとって言ったら激しくしてくれる。
だけど、キスをしてって言っても鎖骨とかおでこにしかしてくれない。
阿部ちゃんなりの僕のことを思っての行動なんだろうけど、本当は唇にキスしてほしい。
そんなこと言ったら、めめの代わりをしてくれている阿部ちゃんを困らせてしまうんだろうな。
阿部side
行為が終わるとラウールは疲れ果てて、いつもすぐに寝てしまう。
その時だけ、俺は目黒の代わりではなく阿部亮平としてラウールと接することが出来る。
だから、寝息をたてるこいつの耳元でこっそり言うんだ。
俺にしろよって。
ラウールside
僕は最低なんだ。
阿部ちゃんの僕に対する好意はとっくに気づいているのに、知らんぷりして抱かれて。
今日もまた阿部ちゃんは寝たフリをする僕の耳元でこうつぶやく
俺にしろよって。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!