念願のパン屋さんに就職し楽しい毎日を過ごしていた。
アイデアが採用されまた一段と人気が出て私の評価もあがり期待される毎日。
さらに上を行こうと気を張りすぎたのかその日は体調が悪かった。
お客様が心配されるのも当たり前だ。
ここは食品を扱うところ。万が一風邪でも移ったら責任がとれない。慌てて謝ると優しい声が聞こえた。
毎日朝コーヒー飲みにくるお客様。
日によって食べるパンは変わるけれど毎日必ずコーヒーを頼まれる。
今ここで仕事を上がるわけにはいかない。
期待もあるし迷惑もかけてしまう。今日は週末だし土日はよく混むから下ごしらえもしたければならない。
幸い明日は休みだったから今日だけ辛抱すれば大丈夫だった。
そういって私は仕事に戻り、瞬さんは本に目を戻しまた静かにコーヒーを飲んだ。
これが、はじめて交わした瞬さんとの会話だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!