ショウは車から大きなリュックと登山用の杖、ペットボトルを2つずつ取り出して地面に並べた。
ため息をついているショウを尻目に、リンはリュックを開けた。
中には大量の食料と水、懐中電灯、ライター、トランシーバー、拡声器などが詰め込まれている。
試しに背負ってみると、想像通りの重さ…
そう言って、ショウは荷物を全て持ち、楽しそうに笑う。
リンも急いでリュックを持ちペットボトルを持ち杖を持ち、駆け足でショウを追いかける。
ショウは『登山口』と書かれた看板の前に立っていた。
看板の奥から続く細い登山道は、見える限りでも険しそうだ。
ショウが指さした先にはロープウェイの駅があった。ロープウェイのワイヤーは山頂近くまで伸びている。
ショウは手をひらひら振ってロープウェイの駅の方へ歩き始める。
2人はロープウェイで山頂近くまで一気に登り、すぐに下見を始めた。
標高が高いこともあり、気温は麓よりかなり低い。
辺りはゴツゴツした岩肌が剥き出しで、所々低木が生えている。
頂上に向かって歩くと、簡易的な神社が見えた。
神社の正面には崖、そのすぐ手前には周りの景色と似つかわしくないほどの大木がある。
不死木は、枝を太く伸ばし、その枝には申し訳程度に大きな葉を数枚付けている。
リンは不死木に近づいて観察を続けた。
リンは低いところにあった1つの葉を摘み、試しに食べてみた。
その様子を見ていたショウがニヤリと笑う。
頬を膨らませてムキになったリンを見て、ショウは今度は少し不安そうに俯いた。
ショウが顔を上げると、不死木の近くにリンはいない。
「人が落ちたぞ!」と誰かが叫ぶと、周りの登山者たちはざわつき始めた。
ショウは急いで崖に近づき、下を見た。
数名の登山者も、ショウと一緒に崖をのぞき込んだ。
が………
ショウと登山者は首をひねった。
何度、目をこすってもそこには同じ景色が見えるだけ。
こんなことはありえないのだ。
ショウが問いかけると、何人もの人が「落ちたのをしっかり見た。見間違いなんかじゃない。」と言う。
ショウはこの現象に心当たりがあった。
リンは不死木の葉を食べ、崖から落ち、そして姿を消したのだ。
「まさか…」とショウは頭を振った。
そこまで考えてから、ショウはロープウェイの山頂駅へ走った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。