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第10話

下見だけ…のはずだった
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2018/07/05 08:09
ショウは車から大きなリュックと登山用の杖、ペットボトルを2つずつ取り出して地面に並べた。
ショウ
これでいいかな
リン
ずいぶん本格的ですね…
ショウ
僕もここまで大荷物にしたくなかったんだけどね…
王様に持ち物相談したら、こんなに持ってくことになったんだよ…はぁ……
ため息をついているショウを尻目に、リンはリュックを開けた。
中には大量の食料と水、懐中電灯、ライター、トランシーバー、拡声器などが詰め込まれている。

試しに背負ってみると、想像通りの重さ…
リン
拡声器なんていつ使うんですか!
ショウ
遭難した時にそれで叫ぶんだとさ…
リン
な、なるほど…
ショウ
遭難したらなかなか危ないらしいぞ、この山。
リン
遭難なんてしますかね?
ショウ
何が起こるかわからないのが山、らしいよ。
そう言って、ショウは荷物を全て持ち、楽しそうに笑う。
ショウ
ほら、行くぞ!
そんなモタモタしてたらリンだけ遭難するぞー
リン
え、はやい…待ってください!
リンも急いでリュックを持ちペットボトルを持ち杖を持ち、駆け足でショウを追いかける。
ショウは『登山口』と書かれた看板の前に立っていた。
看板の奥から続く細い登山道は、見える限りでも険しそうだ。
リン
すごい険しそうですね…
ショウ
そうだね…
リン
………よし!登っちゃいましょ
ショウ
え?リンは登るの?
リン
え?ショウさんは登らないんですか?
ショウ
僕はほら。あれ。
ショウが指さした先にはロープウェイの駅があった。ロープウェイのワイヤーは山頂近くまで伸びている。
リン
え?あんなのあったんですか…
ショウ
じゃあ、リン、山頂で待ってるから
ショウは手をひらひら振ってロープウェイの駅の方へ歩き始める。
リン
いや、私もそっちで行きますから!



2人はロープウェイで山頂近くまで一気に登り、すぐに下見を始めた。

標高が高いこともあり、気温は麓よりかなり低い。
辺りはゴツゴツした岩肌が剥き出しで、所々低木が生えている。
リン
思っていたよりも寒いですね
ショウ
これゃもう少し厚着じゃないとダメだな
リン
ですね…
頂上に向かって歩くと、簡易的な神社が見えた。
神社の正面には崖、そのすぐ手前には周りの景色と似つかわしくないほどの大木がある。
リン
ああ、あの木が…
ショウ
不死木、ね…なんというか……予想以上だな…
不死木は、枝を太く伸ばし、その枝には申し訳程度に大きな葉を数枚付けている。

リンは不死木に近づいて観察を続けた。
リン
それほど高い木じゃないのにこんなに太い…不思議な力があるって言われても納得出来ますね
ショウ
そこの神社は不死木に宿っていると言われる神様を守る為のものらしいよ。
なかなか大事にされてるみたいだ
リン
へぇ、何世紀も前から大事にされているんですね…
リンは低いところにあった1つの葉を摘み、試しに食べてみた。
リン
あれ、意外と苦くないんですね!
むしろ美味しいというか、食べやすいというか…
その様子を見ていたショウがニヤリと笑う。
ショウ
あら、やっぱりチビには高いところの葉っぱは届かないよねー
リン
え、届きますよ…!私だって…
よっ…よっ…あれ
頬を膨らませてムキになったリンを見て、ショウは今度は少し不安そうに俯いた。
ショウ
…ほら…そこゴツゴツして…ちょっと危ないから…
ショウ
ほら…あんまりそっち行くと……崖だから…あの…気をつけ……
リン
え?ショウさん、何か言いました??
リン
はい?……え!うわ!キャー!!!
ショウ
え?リン??
ショウが顔を上げると、不死木の近くにリンはいない。
「人が落ちたぞ!」と誰かが叫ぶと、周りの登山者たちはざわつき始めた。
ショウ
リン!
ショウは急いで崖に近づき、下を見た。
数名の登山者も、ショウと一緒に崖をのぞき込んだ。






が………



ショウと登山者は首をひねった。
何度、目をこすってもそこには同じ景色が見えるだけ。
こんなことはありえないのだ。
ショウ
……落ちてないのか?
ショウが問いかけると、何人もの人が「落ちたのをしっかり見た。見間違いなんかじゃない。」と言う。
ショウ
でも下には誰もいない…
ショウはこの現象に心当たりがあった。
リンは不死木の葉を食べ、崖から落ち、そして姿を消したのだ。


「まさか…」とショウは頭を振った。
ショウ
あいつ……天界の入口から天界に行ったのか…?
そこまで考えてから、ショウはロープウェイの山頂駅へ走った。

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