少女が生け贄に差し出されて2日もしないうちに、サイラ国に雨が降った。
生け贄は大変ショックなことだったが、おかげで国が豊かさを取り戻すことが出来る。
王をはじめとする多くの国民による寄付で、少女に感謝の気持ちを込めた石碑が作られた。
真新しい石碑の前には、違う世界で生きていることを願う人によるたくさんの花束が供えられた。
"国の危機をたった一人で救った少女"として彼女は偉人になる。と思われた。
石碑が作られてちょうど1年、サイラ国は大雨に見舞われていた。
元に戻りかけていた田畑が水没し、流木が川をせき止め大洪水が起こった。
その後何日経っても雨は止むことなく、1年前と同じく国民は食料難になっていた。
寄ってきた1人の兵士が話すと、王は天を仰いだ。
長期に及ぶ異常気象。
再び国民の生活は追い込まれている。
このまま行くと、1年前のように紛争が起きたくさんの命が失われることになる。
生け贄は差し出したのだ。
それですべて解決したはずだったのに。
王の怒りを目のあたりにした兵士は、申し訳なさそうに小さく頷いた。
すべての兵士が王と同意見で、その空間がピリついた時、先程の兵士が駆け寄った。
なるほど、と小さく呟き、王は椅子にドスッと座った。
いつの間にか部屋に来ていた使いが怪しげな笑顔で王に問いかけた。
部屋の中から小さく「そうだ」という声が聞こえる。
使いは上を見つめ、左の口角だけを上げた。
そして王の方へ向き直った。
その時部屋にいた全ての兵士が証人であるのに、ここに来て白を切った使いに冷たい視線が注がれる。
異常気象が収まったかと思えばまた始まり生け贄を差し出す、これがこの国の常識になってしまった。
国は一番最初の生け贄の少女を真の神とし、生け贄を差し出す前は毎年石碑の前でお祈りの儀式が行われた。
______10年後______
毎年必ず異常気象に見舞われるサイラ国では、生け贄という制度が身近なものに変わっていた。
神の使いのことをお迎えと呼ぶようになり、お祈りの儀式も年々あっさりしたものになっていた。
王が最近考えていることといえばこのことばかり。
無くそうにも無くせない、
引くに引けない状況の中、どうにかならないものかと毎日のように策を練っていた。
神の死がいつ来るか。
王はそれだけを待つようになっていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。