第2話

サイラ国物語#2
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2018/04/12 12:34
少女が生け贄に差し出されて2日もしないうちに、サイラ国に雨が降った。
生け贄は大変ショックなことだったが、おかげで国が豊かさを取り戻すことが出来る。

王をはじめとする多くの国民による寄付で、少女に感謝の気持ちを込めた石碑が作られた。
真新しい石碑の前には、違う世界で生きていることを願う人によるたくさんの花束が供えられた。
"国の危機をたった一人で救った少女"として彼女は偉人になる。と思われた。
石碑が作られてちょうど1年、サイラ国は大雨に見舞われていた。
元に戻りかけていた田畑が水没し、流木が川をせき止め大洪水が起こった。

その後何日経っても雨は止むことなく、1年前と同じく国民は食料難になっていた。
兵士
王…お気づきかも知れませんが、これはもしや…
寄ってきた1人の兵士が話すと、王は天を仰いだ。
サイラ王
ああ…1年前と同じだ。全く同じ。
長期に及ぶ異常気象。
再び国民の生活は追い込まれている。
このまま行くと、1年前のように紛争が起きたくさんの命が失われることになる。
生け贄は差し出したのだ。
それですべて解決したはずだったのに。
兵士
王さま!また、あの使いがお会いしたいと…
サイラ王
何なんだ…!また生け贄をよこせとでも言ってるのか?
王の怒りを目のあたりにした兵士は、申し訳なさそうに小さく頷いた。
兵士
はい…。
今回の異常気象を終わらせてほしいなら生け贄を、と…
サイラ王
どれだけ人間を見下しているんだ…
そんなやつを"神様"と呼ばなくてはいけないなんてなぁ…
すべての兵士が王と同意見で、その空間がピリついた時、先程の兵士が駆け寄った。
兵士
でも聞いてください、王様。
1年前生け贄として国を救った女の子ですが、約束通り殺されず、十分な環境で生活しているようですよ。
サイラ王
それはまた…喜ばしい話だな。
その神がもう一度生け贄を要求していることを知らなければもっと喜んだのにな。
兵士
兵士ごときで王様に何度も意見してしまい申し訳ないのですが、私の意見を申してもよろしいでしょうか?
サイラ王
"兵士ごとき"など気にするな。
今は国のことを守りたいと願う仲間だ。
意見を聞かせろ。
兵士
元々孤児の多い我が国ですが、1年前から数がとても増えています。
恐らく、その時の紛争で亡くしたのでしょう。
孤児を養う施設は、どうしても限られた環境でとても十分とは言えません。
一方、生け贄として捧げられた子は良い環境で生活出来ます。
つまり…
サイラ王
孤児にとって生け贄になった方が幸せに生きられる、と?
兵士
左様でございます
なるほど、と小さく呟き、王は椅子にドスッと座った。
"神の使い"
王様、答えはどうなりました?
いつの間にか部屋に来ていた使いが怪しげな笑顔で王に問いかけた。
サイラ王
答えを伝える前に1つ聞きたい。
1年前に、1人捧げればよいという話だった。
でもあなたはまたここに生け贄を要求しに来た。
話が違うと思わないか?
部屋の中から小さく「そうだ」という声が聞こえる。
使いは上を見つめ、左の口角だけを上げた。
そして王の方へ向き直った。
"神の使い"
さあ…そんなこと申しました?
その時部屋にいた全ての兵士が証人であるのに、ここに来て白を切った使いに冷たい視線が注がれる。
サイラ王
………生け贄の件だが。
今後、あなたに捧げる生け贄は殺さないと約束してくれるか?
"神の使い"
もちろん。
1年前に預かったあの子、元気に暮らしてますよ。
サイラ王
そうか…なら安心だ。
…生け贄を準備しよう。
異常気象が収まったかと思えばまた始まり生け贄を差し出す、これがこの国の常識になってしまった。
国は一番最初の生け贄の少女を真の神とし、生け贄を差し出す前は毎年石碑の前でお祈りの儀式が行われた。






______10年後______
兵士
王様ー!今年も"お迎え"が来ましたよ
サイラ王
そうか、確かにそんな時期だ。
さあさあ、石碑にみんなを集めろ。
儀式をやって送り出さねば。
毎年必ず異常気象に見舞われるサイラ国では、生け贄という制度が身近なものに変わっていた。

神の使いのことをお迎えと呼ぶようになり、お祈りの儀式も年々あっさりしたものになっていた。
サイラ王
この先何百年と続くこの国に、生け贄という制度を残してしまって良かったのだろうか…
王が最近考えていることといえばこのことばかり。

無くそうにも無くせない、
引くに引けない状況の中、どうにかならないものかと毎日のように策を練っていた。
サイラ王
もう…神に亡くなってもらうしか方法がない…
神の死がいつ来るか。

王はそれだけを待つようになっていた。

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