第8話

【急募】一撃必殺の作戦
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2018/05/29 09:06
2人は、どんな一流ホテルのロイヤルスイートルームだって適わないくらい豪華な部屋にいた。

この部屋は王が2人のために用意した城内の部屋。
普段は他国から来た王族や貴族をもてなすための部屋で宿泊用の部屋では無いのだが、今回特別に2人を泊めることにしたらしい。
ショウ
リン、さっきのなっがい話メモしてたか?
リン
ショウさんが"なっがい話"って言うと思って、ちゃんとメモしましたよ。
ほら。
リンはびっしりと書き込まれたノートを自慢げにショウに見せた。
ショウ
はあ、こんなにたくさん書いたの?!
やっぱりなっがい話だったんだな
ショウは少し目を通してリンにノートを返した。
ショウ
大事なとこだけ教えて
リンはノートを受け取り、『はぁ』とため息をついてから話を始める。
リン
伝説によると今回のターゲットである神様が普段食べているものは主に、
枯れてしまった草花や樹木に宿っていた魂、死んでしまった動物の魂だそうです。

どうやら、死にかけの魂が神様の元に贈られて初めて魂は天に昇ることが出来る、という言い伝えみたいですよ。

ただ、王様は、
『これは昔の人が神様を正当化するために綺麗に書いたものだ。実際は、天に昇る途中の魂を神様が盗んでいる、という説を信じている人も山ほどいるから本当のことは分からない。』
と言っていました。
ショウ
神は植物と動物の魂は食っといて、人間の魂は食わないの?
リン
そうなんです。
ただ、年に1度、神様は強い力で天災を操らなくてはいけない。
その強い力を解き放つには、人間の生き血が必要だそうで…
ショウ
なるほど、そのための生け贄か
リン
そういうことです
ショウは首を直角に曲げて、目を瞑り上を見あげた。
『うーん…いや……うーん…』と少し唸ってから口を開いた。
ショウ
ボクらにも見えて手を加えることが出来るものって、人間の血しかない。
でも今回の目的は神を殺して生け贄をやめることだから、そのために生け贄を使うわけにはいかない…と。
リン
ちょっと厄介ですね…
ショウ
そうだな…
ショウは近くにあったワインを一口飲み、長く息を吐いた。
ショウ
それで、神にはどうやったら会える?
そもそも直接会えんのかよ
リン
えっと…あ、あった。
"サイラ山"というこの国の象徴とも言える立派な山、知ってますか?
ショウ
ああ、王の部屋の壁に飾ってあった絵の山か。
リン
そうですそうです。
その山の頂点に、大きな木があるんです。
その高度で木が生えること自体ありえないのに、とんでもない大木な上に何世紀も枯れていないので"不死木(ふじぼく)"と呼ばれるそうです。

で、その不死木の葉を1枚食べて、そのまま崖の底に向かって飛び込むと神様の住む天界に行ける、と伝説では言われています。
ショウ
はあ?!
リン
あれ、なんか違いました?
ショウ
それ、上手くいく保証あるの?
リン
まあ、ないでしょうね。
というか、皆無です。
今まで何百人と挑戦された方の中で、成功したのは1人だけ。
ショウ
え、1人いるの?
じゃあその人に会ってやり方を聞くか
リン
いやショウさん、その人は前国王ですよ?
もう何年も前にお亡くなりになってます
ショウ
ああ…ダメか
再び『うーん…』と唸りながらショウはワインをグラスに注いだ。

ショウは考えている時にワインを飲むのが癖で、この日はリンが見た中で1番の飲みっぷり。
もうボトルが空いてしまいそうな勢いだ。
ショウ
崖から飛んで、上手くいったらどれぐらいで天界に着く?
リン
王様が前国王様から聞いた話だと、崖のちょうど中腹ぐらいで目が開かないほど眩しくなって、光が弱まると大きな扉が見えるそうです…けど…
リン
信じ難い話ですね…私、あんまり神話とか伝説とか信じないタイプなんですよねー
ショウ
中腹か、ならなんとかなるか
リン
え?ショウさん、今なんて…?
リンの不安な声を無視して、ショウは最後のワインをボトルに口をつけて一気に飲み干した。
ショウ
中腹を過ぎたら結果がわかるなら、パラシュートでも背負って飛び込めばいいでしょ?
何も起こらなかったらパラシュート開いてゆっくり降りてくればいいし。
リン
まあ、それなら安全ですけど…
ショウ
天界からの帰り方は聞いた?
リン
天界にもサイラ山と同じような山があって、天界に行った時と同じことをすれば帰れるそうですけど…信じてるんですか?
ショウ
あのね、信じてなかったら、神殺しなんて引き受けないから
するとショウは立ち上がり、4つあるうちの1つの個室を覗いた。
ショウ
じゃ、ボクこの部屋ねー
リンもどっか好きな部屋で寝な?
リン
あ、はい
ショウ
もし1人だと寂しいんだったら一緒に寝てもいいよ?
リン
もう、大丈夫ですから!
いつまでも子供じゃないんですから!
ショウ
明日は8:00起きね、ちょっと出かけるからそのつもりで。
シャワー浴びたいなら浴びて、早く寝なよー
そう言ってショウは部屋へと入った。
リン
もう、酔いすぎだよ
リンは『やれやれ』と言うようにため息をついた。
ショウは酔うと、リンのことを子供扱いしてくるのだ。
面倒臭い一方で、ショウがリンのことを子供のように思ってくれていると実感出来て嬉しくもある。
リン
さーてと、シャワー入って寝ちゃおう
明日のことも考えて、リンは急いでバスルームに向かった。

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