第3話

シャレてるお尋ね者
37
2018/04/13 08:52
緑、黄色、紫、赤…様々な色の液が入った小瓶がトントンと並べられる。

15本ほどのカラフルな瓶を見て、彼は満足げに頷いた。
これがいつもの「始めろ」という合図だ。
リンは頷き返し、早速作業をはじめた。

元のスープの味や見た目を壊さないように慎重に、かつスピーディーに。

彼はストップウォッチを確認しつつ、リンの手元もちらちら見ている。
ショウ
おい、そこは黄色よりオレンジの方がいいだろ…
リン
うるさい!黙って!見てて!うるさい!
ショウ
なんでボクが怒られるわけ?
ナンセンスな誰かさんよりよっぽど有能だと思うんだけど
リン
もう!ショウさんは黙っててください!
ボウルにいろんな色の液体を入れて混ぜ、スープに近い色にしていく。

それだけでいいはずなのに、無駄に洒落てる彼はいつも+αを求める。
リン
…よし、これでどうだ!
完璧でしょ?
ショウ
あのな、これのどこが完璧なんだよ…
緑が強すぎるし、やっぱりオレンジが足りない。
いろんな色を混ぜすぎたおかげでスープはカレー並にドロっとしてるし、これじゃあ怪しさMAXだろ…
スープをスプーンですくってみると、確かにスープとは程遠いほどドロっとしている。

ショウは汚いものでも見るかのようにそのスープを遠ざけた。
ショウ
こんなんじゃ依頼料貰えねぇだろ
リン
そこまで言わなくてもいいじゃないですか…
私、毎回結構凹んでるんですよ
ショウ
凹めるだけ、自覚してるだけまだマシか。
ショウ
ほら、直してやるからそのカラフルカレーこっちよこせ。
なにがカラフルカレーだ、とブツブツいいながらリンはスープの入った皿を彼の方へ滑らせた。
スープを受け取って5秒ほど考えたあと、彼はすごい早さで液体を加えていく。
ショウ
オレンジ…赤もちょこっと。
…なんでこんな面倒くさい色にしたんだよ。
逆にこの色を作る技を教えて欲しいぐらいだ。
彼は皮肉たっぷりにそう言い切ったあとあなたの方をちらっと見た。
リン
…良かったら教えてあげますよ
ショウ
あーいいのいいの。
ボクはボクのやり方が気に入ってるからね。
リンのやり方じゃあ、ボクの思い描く美しさにはたどり着けないからねー。
ショウ
ボクの実力不足かなー
あなたはどう思う?
リン
えっ…ショウさんが実力不足なわけないじゃないですか
ショウ
だよねーだよね!そうだよねー!
じゃあ…
そこまで言って彼はぐっとリンの方へ身を乗り出した。
ショウ
ボクとリンで何が違うのか、考えてねー
そう言って、彼はスープをかき混ぜる。
ショウ
はい、できたよ
ちゃんと大臣にお届けしてねー
…お届けぐらい人並みにできるよね?
リン
できますよ!バカにしないでください!
行ってきます…
ショウ
1072だよー分かった?忘れないでねー?
先程よりかなりおいしそうな見た目に仕上がったスープがリンに手渡される。
リンが手を加えたことを感じさせない見事な出来…
リン
なんだかんだでショウさんにはかなわないや…
綺麗な花で飾り付けられた廊下を歩き、1つの部屋の前でリンは止まった。
リン
1072…間違ってないよね?
よし…。
ノックをすると、「誰だ?」と男性の声が聞こえた。
リン
お食事をお持ちしました。シーフードスープでございます。
いつも通りのセリフを言うとあっさりと扉は開いた。
男性
ああ、ご苦労さま。
やはりこのホテルのシーフードスープはシーフードスープに見えないほど綺麗な色だな
リン
いつもご注文していただいてありがとうございます。シーフードスープがお好きなんですね?
男性
いや、ここのシーフードスープが特別好きなのだよ。
綺麗な色してこんな美味しいスープを飲まないなんて…飲んだことないやつ全員に奢ってやりたいよ
リン
嬉しいお言葉……
それでは、失礼致します。
男性
うん、ご苦労
部屋を出るとショウが前に立っていた。

扉が閉まり、すぐにスープをすする音が聞こえた。
ショウ
"最後の晩餐に美しさを。"
スプーンが床に落ちた音が聞こえた。
男が喉を押さえて苦しむ姿が目に浮かぶ。
ショウ
"美しいものを最後に"
暗闇からショウへ札束が手渡された。
依頼主の顔は見えないが、政界の重鎮であることは間違いない。
ショウはその場で札を数え始める。
ショウ
…999、1000。はい、ぴったり。
毎度ご利用ありがとうございます。
またのご利用お待ちしてますよ、政界の大物さん。
暗闇からククッと笑い声が聞こえ、その主はすぐに去っていった。
リン
ショウさん、早く逃げましょう
ショウ
お、そうだった。
めんどくせぇな、逃げるの。
リン
ショウさん、昔と違うんです。
いまや指名手配犯ですよ?
顔を見られるだけで危ないんです
ショウ
分かってるよ、分かってますよリンさん。
……じゃあ逃げるぞ
国際的政治家を何人もあの世へ葬り、
その名を世界中に轟かせた。
国際指名手配までされている。
依頼されれば誰でも殺す。
華麗な毒使いで素敵な最後の晩餐を提供する。
誰にも怪しまれることなく、確実にターゲットを仕留める。
殺し損ねたターゲットはこれまで0。
ショウ
今頃サイレンならして駆けつけちゃって、警察も無能だな
リン
ショウさんの中の警察は何年経っても無能ですね
ショウ
この仕事始めて10年も経ってる。
国際指名手配されてからは5年だ。
それでも何の情報も掴まれてない。
ショウ
この仕事始めてから10年も経ってる。
国際指名手配されてから5年だ。
それでも何の情報も掴まれてない。
ショウ
これは警察が無能だからとしか思えない
人は皆、彼のことをこう呼ぶ。
リン
やっぱり今世紀最も美しい毒盛り屋は違いますねえ
ショウ
うるせえよ
リン
あのPOISON様が、照れてらっしゃるのですかー?
ショウ
へっ…誰がそんな名前考えたんだか
今世紀最も美しい毒盛り屋"POISON"

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