第5話

依頼主の正体
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2018/04/17 10:30
ショウとリンは本日2件目の依頼主の元へと向かっていた。 

ショウは朝から鼻歌を歌い、リンはそれをとても気持ち悪がっていた。
分かりやすく機嫌がいい。
「すっごいいいことあったんだ!」とショウの顔面に太字で浮かび上がってきそうなほどの上機嫌。
リン
ショウさん、随分機嫌いいですね
リンが話しかけると、ショウは待ってましたというような早さで振り向いた。
ショウ
えっ…やっぱ伝わっちゃうかんじ?
リン
バンバン伝わってますよ
なんでそんな機嫌いいんですか
そう聞くと、ショウはリンの肩を掴んでぐっと引き寄せた。
「このルックスでこんな事されたら普通の女子はきゅんきゅんするんだろうな」とリンは思う。
残念ながらリンはこういう事に慣れてしまった系女子で、ショウは男だろうが女だろうが全く意識しない系男子だ。

ショウは小声で話し始める。
ショウ
実は昨日の夜中、依頼があってね!
リン
はあ…
ショウ
その内容が、…やっぱりリンには内緒にしとこうかなー
「めんどくせぇ」と内心毒づきながら、リンはショウの望む答えを返す。
リン
えー教えてくださいよー
するとショウは嬉しそうにくすくす笑い、リンをもっと引き寄せた。
ショウ
神殺し
リン
…は?今なんて?
ショウ
か!み!ご!ろ!し!
リン
神って殺して平気なんですか?
そもそも神って、殺せちゃうんですか?
ショウ
それが殺せちゃうらしいよ。
そんでもってボクにはなんの害もないんだって。

ボクにとって得しかないんだよ!
リン
依頼料はいくらでまとまったんですか?
ショウは「あっ!」と急に大声を出した。
耳元で叫ばれたリンはぱっとショウから離れ、やれやれとため息をつく。
リン
ちゃんと話さないとダメだって、以前言いましたよね?
ショウ
楽しそうな依頼だったからついつい忘れちゃったよね…
リン
……
ショウ
そういう日も…まあ、あるよね
リン
…あったら困るんですけどね
リン
それで、神殺しを依頼してきたのはどこの誰なんです?
ショウ
…わからん
リン
まさか契約書を書き忘れたんですか?!
ショウはゴソゴソとカバンからファイルを取り出した。
中から1枚の契約書を引っ張り出し、リンの前に差し出した。
ショウ
これ!読めないの!
リン
サインが読めないって、ショウさんいつか騙されちゃいますよ
そう言ってからリンも契約書のサインを見た。
例によって、そこにはミミズのようなものが数本。
ショウ
な?読めないだろ?
リン
……残念ながらわたしには読めます
ショウ
は?超能力かなんか使ったか?
リン
違いますよ。
これ、サイラ文字ですよ!
ショウ
あー!
そう言えば、サイラ国に来いって言ってたわ
ショウ
なんでお前サイラ文字を読めるんだ?
リン
母がサイラ国出身で、わたしも小さい頃はサイラ国に住んでたので。
読むことは出来ます
ほぉ、とショウは目を丸くした。
ショウ
で!そのサインはなんて書いてある?
リン
えーっと…『アーサー・サイラ』…
え?!アーサー・サイラ?!
名前を見て、リンは飛び上がった。
ショウ
誰だよアーサーさんって
リン
ご存知ないですか?
サイラ国国王ですよ!
ショウ
は?!嘘つけ!
嘘つけと言いながら、ショウは忙しなく動き始めた。
そうこうしている間に目的地に着いた。

毒の瓶を用意しているあいだもショウはどこかソワソワしている。
ショウ
だって、言葉同じだったよ?
リン
最近は言語が統一されて言葉は同じですが、大事な書類にサインする時とかはサイラ文字でサインすることが多いんです。
リン
しかも名前にサイラって入ってるじゃないですか。
王族の証ですよ
ショウは着々と今日のターゲットのための調理を進め、ボウルに黄色と赤の液を同じ量ずつ加えて湯煎している。
ショウ
でも国王直々にこんな依頼しにくるかね?
一応ボク、国際指名手配犯なんだけど
リン
それだけ、このままだと国が危ないってことなんじゃないですかね?
ショウはボウルの中に卵と牛乳を加えてよくまぜあわせる。
ショウ
確かにそういう事っぽいなー
ショウ
リン、薄力粉入れて
リン
はい、ふるっておきましたよ。
それにしてもまあ、よく神殺しなんて受けましたよね
調理場にはかき混ぜる音と2人の声だけが響いている。
ショウ
神殺しってなんか楽しそうだし、ちょうど来週予定空いちゃってたし。
リン
わたしなら予定空いてても受けませんよ
リンの皮肉を聞くことなく、ショウは生地の色を整えてからそれを型に流し込んだ。
円柱の型に全て流し込み、オーブンにセットする。
ショウ
なんで?めちゃくちゃ楽しそうな依頼じゃない? 
ボク昨日から楽しみで仕方ないんだけど
ショウの手は休むことなく、鍋に再び赤と黄色、オレンジの皮をすりおろして煮詰め始めた。
リン
だって下手したら死んじゃいますよね?
ショウ
うん、そこがいいんじゃん
リン
ショウさんが死んだら、何人ものレディが悲しみますよ?
ショウ
え?そんなにたくさんのレディと遊んだことないんだけど。
リン
あれで遊んでなかったら何してたって言うんですか…
ショウ
話してただけじゃない?
リンとは毎日人殺しに遊びに行ってるけど
鍋からオレンジのいい匂いがしてきた頃、オーブンからもいい匂いが漂ってきた。
オーブンから出して皿に移し、その上にオレンジソースをかけた。
リン
オレンジケーキですか。
じゃあ、持ってきますね
ショウ
あ、まだだよ
リン
もう十分ですよ
ショウ
え?これのどこが十分なの?
ちゃんと見てくれないと困るよ
そう言うとショウは手際よく皿全体にオレンジの皮をまぶし、いろんな液をまぶしてカラフルに仕上げた。
ショウ
うん!ボクらしい美しさ!
ショウ
リン、いいよ!
リンには正直どこが変わったのか分からない。
さっきも今も、どっちもショウらしいことには変わりない。
リン
じゃあ、今度こそ持ってきます
ショウ
よろしくー
落とさないでねー?
リンはすたすたと調理場を出ていった。
ショウ
"最後の晩餐に美しさを。"
一人静かな調理場でポツリと呟いた。
ショウ
"美しいものを最後に"
ショウ
これ、神様にも言っちゃっていいのかな?
赤色の液が入った瓶を見て嬉しそうに笑う。
ショウ
最高の晩餐をお届けしなくちゃ
遠くからサイレンが聞こえてくる。
「今日は早いんだな」と呟きながら、2人は次の場所へと向かった。

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