ショウとリンは本日2件目の依頼主の元へと向かっていた。
ショウは朝から鼻歌を歌い、リンはそれをとても気持ち悪がっていた。
分かりやすく機嫌がいい。
「すっごいいいことあったんだ!」とショウの顔面に太字で浮かび上がってきそうなほどの上機嫌。
リンが話しかけると、ショウは待ってましたというような早さで振り向いた。
そう聞くと、ショウはリンの肩を掴んでぐっと引き寄せた。
「このルックスでこんな事されたら普通の女子はきゅんきゅんするんだろうな」とリンは思う。
残念ながらリンはこういう事に慣れてしまった系女子で、ショウは男だろうが女だろうが全く意識しない系男子だ。
ショウは小声で話し始める。
「めんどくせぇ」と内心毒づきながら、リンはショウの望む答えを返す。
するとショウは嬉しそうにくすくす笑い、リンをもっと引き寄せた。
ショウは「あっ!」と急に大声を出した。
耳元で叫ばれたリンはぱっとショウから離れ、やれやれとため息をつく。
ショウはゴソゴソとカバンからファイルを取り出した。
中から1枚の契約書を引っ張り出し、リンの前に差し出した。
そう言ってからリンも契約書のサインを見た。
例によって、そこにはミミズのようなものが数本。
ほぉ、とショウは目を丸くした。
名前を見て、リンは飛び上がった。
嘘つけと言いながら、ショウは忙しなく動き始めた。
そうこうしている間に目的地に着いた。
毒の瓶を用意しているあいだもショウはどこかソワソワしている。
ショウは着々と今日のターゲットのための調理を進め、ボウルに黄色と赤の液を同じ量ずつ加えて湯煎している。
ショウはボウルの中に卵と牛乳を加えてよくまぜあわせる。
調理場にはかき混ぜる音と2人の声だけが響いている。
リンの皮肉を聞くことなく、ショウは生地の色を整えてからそれを型に流し込んだ。
円柱の型に全て流し込み、オーブンにセットする。
ショウの手は休むことなく、鍋に再び赤と黄色、オレンジの皮をすりおろして煮詰め始めた。
鍋からオレンジのいい匂いがしてきた頃、オーブンからもいい匂いが漂ってきた。
オーブンから出して皿に移し、その上にオレンジソースをかけた。
そう言うとショウは手際よく皿全体にオレンジの皮をまぶし、いろんな液をまぶしてカラフルに仕上げた。
リンには正直どこが変わったのか分からない。
さっきも今も、どっちもショウらしいことには変わりない。
リンはすたすたと調理場を出ていった。
一人静かな調理場でポツリと呟いた。
赤色の液が入った瓶を見て嬉しそうに笑う。
遠くからサイレンが聞こえてくる。
「今日は早いんだな」と呟きながら、2人は次の場所へと向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。