家に着くなり、俺はいつも通り靴下を放ってテレビをつけた。まぁニュースの内容は想像の範疇を越えず、どこもかしこも隕石の話題で持ちきり。カメラマンが捉える映像はさっき俺が見てきたばかりだし、専門家は今聞いても仕方ないだろなんて思わざるを得ない話をしていた。
『 ... くだらな 』
単純に聞く必要も見る必要も無いなぁと思った俺は画面をニュースではなく映画に切り替えた。
前から見ようと思っていた映画を再生し、手にはポップコーンを持って、少し部屋の電気を暗くして、準備は完了。
「 きゃー! 」
いざソファに沈みこもうとすると外から悲鳴が聞こえた。隕石でパニックを起こす大衆とは相対し、俺が見ようとしているのは昔のロマンス映画。その映画には不釣り合いな悲鳴は正直邪魔だ。
俺は少し空いたカーテンの隙間を締め直し、テレビの音量を上げた。
『 .........っわ、 』
映画に集中していた時、携帯が振動した。
画面を覗くと "中本悠太" の4文字が光っている。
俺は映画を一時停止して、緑のボタンをタップした。
『 もしもしゆたヒョ「 マーク!?!大丈夫!?無事やんな?!?」 ... なに、声でかっ、 』
『 別に無事も何も、まだ隕石落ちてないじゃん! 』
「 そりゃそうやけどさぁ、...俺今日本やから状況わからんくて、とりあえず心配で電話かけた 」
『 大丈夫だよ、明日の夜には韓国に戻るから 』
「 よかった〜〜、ほっとしたわぁ。出張中にマークが隕石で死ぬとか話にならんし 」
『 ちょっと、縁起悪い!韓国の家は出張前に退去しちゃってるから、しばらくは親戚の家にお世話になるつもり。またヒョンの家泊まりに行くから 』
「 おう、待ってんで。また韓国戻ったら連絡して 」
『 はーい。またね、ヒョン 』
「 ん、またな 」
同じ会社で働いていた、俺の先輩にあたるゆたヒョン。
面倒見が良く、俺の事を何故か凄く好きでいてくれていたからか、敬語を使わないくらい仲良くなった。
外資系の会社に務める俺たちは、今長期の出張中で、英語の話せる俺はヨーロッパ、日本語が話せるゆたヒョンは日本へ、約2年の出張中だ。他にも仲のいい先輩のジャニヒョンはアメリカへ、ウィンウィンは中国へ行ったんじゃなかったっけ。
電話を切ったあと、通知欄を見ると家族や同僚、先輩後輩、高校の時の友達ですら、大丈夫?と安否確認の連絡を入れてくれていた。1番心配しているであろう親には電話をかけて、ゆたヒョンと同じようなことを話した。ちなみに親は最近カナダに家を建てたらしく、そこに住んでいるため、韓国に帰る場所は親戚の家くらいしか無いのである。
丁度キリのいいところでゆたヒョンから電話がかかってきたせいか、集中力が途切れてしまって、テレビの電源を切った。
暗くしていた部屋の電気を着け、思い切り伸びをする。
時刻は17時32分。
普段だったら今頃会社を出ている時間だ。
少し早めに晩御飯を食べようと携帯で出前を頼もうとするが、そういえば世間は隕石で騒いでいるため頼めない事に気がついた。しょうがなく冷蔵庫を開けると、生卵が2つと、ビール、カビの生えかかったパン。流石にお腹がすいているとはいえパンは食べられないし、卵料理なんてもってのほか。横の棚に目を移すと、カップラーメンが目に入った。
今日の晩御飯が決定したところで、俺はビールを手に取り、お湯を沸かした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。