「 んー、別にいいけど、それ知ってどうすんの? 」
『 情報は沢山知っておくに越したことはない、ってのが1番だけど、単純に気になるんだよね〜 』
「 じゃあお前の任務には特に関係の無いことってことでいい? 」
『 ... なんでニヤニヤしてんの 』
「 だってお前個人からの依頼ってなったら、お前から直接お金貰えばいいってことだろ?そっちのが楽じゃん。お前んとこの経理めんどくさいし 」
『 ドヨニヒョンがめんどくさいのはわかるんだけど、俺から金取るわけ〜? 』
「 当たり前。情報仕入れるのだって一苦労なんだから 」
『 こんな高い部屋住んどいてよく言う〜 』
テイルから見せられた電卓を見たあと、ヘチャンは元から丸い目をもっと丸くして、渋々頷いた。
「 よし、じゃあ殺された奴をA、殺した奴をBとして話進めるから。とりあえず情報を整理するためにAとBの基本情報なんだけど、Aのことは知ってんの?お前の先輩だろ? 」
『 あー、まあ一応?特に仲良いわけじゃなかったけど、筋肉もりもりだったのは覚えてる。あと身長もでかくて、戦闘スタイルは力でゴリ押しみたいな感じ。ザ・体育会系 』
「 うん、その解釈で間違いないよ。本名はイ・ハジュン、身長186cm体重79kg、中学時代に両親が借金で夜逃げ。本人は家に残され、借金の取り立て屋が来たところ、持ち前の怪力でそいつを撃破。そこからお前んとこのボスにスカウトされて今に至る感じ 」
『 中学時代...?やば...引くわぁ... 』
「 次、Bの事について。Bは違う組織に在籍してるし、実際お前んとこの組織がBに遭遇したのはAが殺された時の1回きりだから、あんまり情報は割れてない。身長は170前半、華奢な体型で、服装もカジュアルだったことから、男女の判別も不可。顔もフードを被っていて見えていない。戦闘時、右手に包帯をぐるぐる巻いていた。Bについての基本情報はこれぐらい 」
『 もし女の子だったらAのこと殺したの尚更信じらんない。でも可愛いのかなぁ〜?見てみたーい 』
面白そうな玩具を見つけた子供のように目をキラキラ光らせたヘチャンにテイルは少し呆れながら、水を一口飲んだ。
『 それで、戦闘スタイルは? 』
「 んー、知らない 」
『 え!? 』
「 だって1回だけじゃん戦ったの。しかもお前んとこの組織がやられてんだから情報少ないのも当たり前 」
『 そんなのずるい〜!たっかいお金払ってそんだけ? 』
「 まぁ近接だったらしい、けど 」
『 ...けど? 』
「 銃の扱いも罠仕掛けるのも、どっちも上手いんだって。Aを殺した時に使ったのがナイフってだけ。だからほんとに近接かどうかも定かじゃない 」
『 ふーん。なんでもできちゃうってことじゃん 』
「 まぁそういう事 」
ヘチャンは東京の景色を一望できる大きな窓に手を当てて、沈みかけの夕陽をじっと眺めた。
『 まぁ今日会えるって確証はないけど、... なんとなくその子と会えちゃう気がするんだよねぇ 』
暗い茶色に染められて少し傷んだ毛先から覗く小麦色の肌と整った顔立ちは、まるで彫刻のようだった。
『 ていうかお仕事まで時間あるし、それまでテイリヒョンの部屋でゆっくりして行くからぁ〜♡ 』
「 は?! 」
『 22時30分には出ていくとしてー、晩御飯は一緒に食べれるねっ 』
「 むりむり出てけ 」
『 ヒョンは何食べたい〜?一緒に作ろーよー 』
「 嫌だ!無理!うわっ、てかお前窓触ったろ!窓に手形ついてんだけど!拭け!! 」
パタパタと足音を立てて部屋の中を駆けずりまわる2人の成人男性はネズミと猫、いや、クマとうさぎのようで、殺し屋と情報屋にはまるで見えなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!