───七海side.
かれこれ1時間、体育座りのまま、もはや、何語なのそれ?って言葉を永遠呟く伊織先輩。
文化祭で、あまねと羽瀬くんがめでたく結ばれたと報告を受けたのは、文化祭が終わって、週明けの今日。
しかも、放課後に突然───。
『お兄ちゃんと、ななちゃんに報告があるの!実はね、悪魔くんと付き合うことになりました』
『あと、言いづらいんだけど。これからは放課後、悪魔くんと一緒に帰りたいな……って』
そう言ってバツが悪そうに両手を擦り合わせるあまねに、そりゃ私だって寂しかったけど。
それ以上に、幸せそうなあまねに嬉しくなった。
私は何があっても、あまねの味方!
ここで伊織先輩をどれだけ立ち直らせてあげられるかが、今後のあまねの幸せにかかってる。
それに、伊織先輩のことも……放っておけない。
隣に体育座りしていた私の肩に、コツンと伊織先輩の頭が雪崩てくる。
───ドキッと跳ねる心臓。
”ななちゃん”なんて、あまねの真似する伊織先輩に、キュッと心臓鷲掴みにされた。
目が合って、惹き込まれそうになる。
「付き合って早々泣かれたら困る」なんて言いながら、私を優しく抱きしめる体温。
泣かないなんて無理です、伊織先輩。
───あまねside.
やっと、羽瀬くんと両思いになれたのは嬉しいけれど。
全くと言っていいほど、羽瀬くんと2人きりになれないのはどうしてだろう。
ある時は……昼休みの屋上で、羽瀬くんとお弁当を広げているところに、お兄ちゃんとななちゃんカップルの襲来。
───放課後
そして、またある時は……。
フワッと私を引き寄せて、顎クイしながら顔を近付ける江本くんに、隣で羽瀬くんが激怒しているのが聞こえる。
私を自分の後ろに隠して、キッと江本くんを睨みつける羽瀬くん。
そんな羽瀬くんを面白そうに見つめる江本くん。
───あまねの家の前
あっという間に家の前まで着いてしまった。
今日もとことん邪魔されて、羽瀬くんと2人で過ごせた時間は……トータル30分もあっただろうか。
もっと、一緒にいたい。
でも、そんな気持ちを、羽瀬くんに伝えるのは何だか恥ずかしくて。
今日も笑顔で手を振った。
ギュッと抱きしめられて、私の首元に羽瀬くんが顔をうずめる。
羽瀬くんの息がかかるくすぐったさから少しだけ身をよじってみるけれど、さらにギュッと抱きしめられるだけだった。
上目遣いに私を見上げて、小首傾げる羽瀬くんにキュンッと心臓が音を立てて射貫かれる。
……そんなの、私だって同じに決まってるのに。
羽瀬くんの手が私の後頭部を支えて、その整った顔が静かに近づいてくる気配。
……この雰囲気は絶対……キスされる。
ドキドキうるさい心臓を抱えながら、そっと目を閉じてみる。
だけど、……あれ?
羽瀬くんの視線の先を目で追えば、
リビングの窓から微笑みながら私たちを見つめるお母さんの姿。
もう〜〜!……いつから見てたの!?
羽瀬くんの瞳が優しい。
あんなに悪魔だとばかり思っていたけれど、今はもう悪魔の面影すらない。
私のことを愛おしそうに見つめて死ぬほど幸せなんて言う羽瀬くんは、きっと分かってない。
私が羽瀬くんの彼女になれてどれだけ幸せなのかを。
これからもずっとずっと、羽瀬くんだけの天使でいさせてね♡