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第21話

悪魔は天使を独り占めしたいらしいのです
11,163
2020/11/01 12:53
───七海side.
赤澤 七海
赤澤 七海
いつまで
そうしてるつもりです?
木下 伊織
木下 伊織
 ○×△☆♯♭●□▲★※
かれこれ1時間、体育座りのまま、もはや、何語なのそれ?って言葉を永遠呟く伊織先輩。

文化祭で、あまねと羽瀬くんがめでたく結ばれたと報告を受けたのは、文化祭が終わって、週明けの今日。

しかも、放課後に突然───。

『お兄ちゃんと、ななちゃんに報告があるの!実はね、悪魔くんと付き合うことになりました』
木下 伊織
木下 伊織
俺のあまね……
あんなに可愛いあまねを
なんであんな害虫なんかに
赤澤 七海
赤澤 七海
確かにあまねは可愛いし
彼氏ができてショックなのも
分かりますけど……!
木下 伊織
木下 伊織
無理、立ち直れない……
『あと、言いづらいんだけど。これからは放課後、悪魔くんと一緒に帰りたいな……って』

そう言ってバツが悪そうに両手を擦り合わせるあまねに、そりゃ私だって寂しかったけど。

それ以上に、幸せそうなあまねに嬉しくなった。
私は何があっても、あまねの味方!
ここで伊織先輩をどれだけ立ち直らせてあげられるかが、今後のあまねの幸せにかかってる。

それに、伊織先輩のことも……放っておけない。
赤澤 七海
赤澤 七海
いい加減にしてください!
木下 伊織
木下 伊織
……っ、
赤澤 七海
赤澤 七海
永遠クヨクヨ、ネチネチ……
それでも男ですか!?
あまねが可愛い、あまねが大事って
口ばっっっかり!!!
木下 伊織
木下 伊織
はぁ?俺のどこが口だけ、
赤澤 七海
赤澤 七海
羽瀬くんは伊織先輩の大事な
あまねが選んで、好きになった人です
木下 伊織
木下 伊織
……!!
赤澤 七海
赤澤 七海
見守ってあげましょうよ。
それに……伊織先輩には、
私だっているじゃないですか
隣に体育座りしていた私の肩に、コツンと伊織先輩の頭が雪崩てくる。

───ドキッと跳ねる心臓。
木下 伊織
木下 伊織
……生意気だね、ななちゃん
”ななちゃん”なんて、あまねの真似する伊織先輩に、キュッと心臓鷲掴みにされた。
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねの幸せを脅かすやつは
たとえ伊織先輩でも排除します
木下 伊織
木下 伊織
フッ。怖いね〜。
……生意気ついでにさ、
目が合って、惹き込まれそうになる。
木下 伊織
木下 伊織
彼女になってよ。七海
赤澤 七海
赤澤 七海
……っ、泣いていいですか
「付き合って早々泣かれたら困る」なんて言いながら、私を優しく抱きしめる体温。

泣かないなんて無理です、伊織先輩。
───あまねside.

やっと、羽瀬くんと両思いになれたのは嬉しいけれど。

全くと言っていいほど、羽瀬くんと2人きりになれないのはどうしてだろう。
木下 伊織
木下 伊織
あまね〜!!
木下 伊織
木下 伊織
今日こそ兄ちゃんと帰ろ?
ある時は……昼休みの屋上で、羽瀬くんとお弁当を広げているところに、お兄ちゃんとななちゃんカップルの襲来。
木下あまね
木下あまね
だ、だから放課後は羽瀬くんと
木下 伊織
木下 伊織
兄ちゃんよりその男がいいの?
まさかね?
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃん……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
毎日、毎日……
面倒くせぇシスコンクソ野郎
木下 伊織
木下 伊織
今、なんか言った?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
しかも、地獄耳……
赤澤 七海
赤澤 七海
こら!伊織先輩、あんまり
あまねのこと困らせない!
木下あまね
木下あまね
ななちゃん、ありがとう〜
赤澤 七海
赤澤 七海
……でも、羽瀬くん。
私たちから長いことあまねを
奪ったら……地獄みるからね?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
このカップル
タチ悪すぎだろ……
───放課後

そして、またある時は……。
江本 千冬
江本 千冬
あー!!!
敦人だ〜♡♡
おーーい!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……げっ、
木下あまね
木下あまね
江本くんも一緒だ
江本 夏樹
江本 夏樹
……あまね
まだこんなのと付き合ってんのか
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
サラッと呼び捨てすんじゃねぇ
って、おい!
フワッと私を引き寄せて、顎クイしながら顔を近付ける江本くんに、隣で羽瀬くんが激怒しているのが聞こえる。
木下あまね
木下あまね
江本くん……!?
江本 夏樹
江本 夏樹
俺にすればいいのに
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……やめろっ、
あまねから手ぇ離せ
江本 千冬
江本 千冬
心配しないで〜
敦人は私がもらってあげる♡
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
頼んでねぇっつーの
私を自分の後ろに隠して、キッと江本くんを睨みつける羽瀬くん。

そんな羽瀬くんを面白そうに見つめる江本くん。
江本 夏樹
江本 夏樹
隙あらば奪いに行くから
……せいぜい頑張れよ
江本 夏樹
江本 夏樹
行くぞ、千冬
江本 千冬
江本 千冬
えぇ〜!
せっかく敦人に会えたのに。
来年、絶対同じ学校行くからね♡
木下あまね
木下あまね
嵐みたい……
───あまねの家の前

あっという間に家の前まで着いてしまった。

今日もとことん邪魔されて、羽瀬くんと2人で過ごせた時間は……トータル30分もあっただろうか。

もっと、一緒にいたい。
でも、そんな気持ちを、羽瀬くんに伝えるのは何だか恥ずかしくて。
木下あまね
木下あまね
……送ってくれてありがとう
気をつけて帰ってね
今日も笑顔で手を振った。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……はぁ。
そんな簡単に手ぇ振られても
木下あまね
木下あまね
……わ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
今日は大人しく帰ってやんねぇよ
ギュッと抱きしめられて、私の首元に羽瀬くんが顔をうずめる。

羽瀬くんの息がかかるくすぐったさから少しだけ身をよじってみるけれど、さらにギュッと抱きしめられるだけだった。
木下あまね
木下あまね
羽瀬くん?
……どうしたの?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なんで……
木下あまね
木下あまね
え?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なんでこんなにも
2人きりになれねぇんだよ……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
もっと一緒にいたいって
思ってんのは、俺だけ?
上目遣いに私を見上げて、小首傾げる羽瀬くんにキュンッと心臓が音を立てて射貫かれる。

……そんなの、私だって同じに決まってるのに。
木下あまね
木下あまね
私も、羽瀬くんと
もっと一緒にいたいって思ってるよ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……あまね、
羽瀬くんの手が私の後頭部を支えて、その整った顔が静かに近づいてくる気配。

……この雰囲気は絶対……キスされる。

ドキドキうるさい心臓を抱えながら、そっと目を閉じてみる。


だけど、……あれ?
木下あまね
木下あまね
……羽瀬くん?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……さすがの俺も、
こんな状況じゃできねぇ
木下あまね
木下あまね
……えっ?
羽瀬くんの視線の先を目で追えば、
木下あまね
木下あまね
……お、お母さん!!
リビングの窓から微笑みながら私たちを見つめるお母さんの姿。

もう〜〜!……いつから見てたの!?
木下あまね
木下あまね
ご、ごめんね!羽瀬くん!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……フッ、またおあずけだな。
いいよ。あまねが俺の彼女ってだけで
俺は死ぬほど幸せだから
羽瀬くんの瞳が優しい。
あんなに悪魔だとばかり思っていたけれど、今はもう悪魔の面影すらない。

私のことを愛おしそうに見つめて死ぬほど幸せなんて言う羽瀬くんは、きっと分かってない。
木下あまね
木下あまね
……私も!
羽瀬くんの彼女になれて
すっっごく、幸せだよ
私が羽瀬くんの彼女になれてどれだけ幸せなのかを。

これからもずっとずっと、羽瀬くんだけの天使でいさせてね♡

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