第17話

気付けば文化祭の季節になりました
8,650
2020/10/04 04:00
残暑が遠のいて、ワイシャツの上にカーディガンを羽織る生徒が増えた。

季節はどんどん秋らしさを深めて、気付けばもうすぐ文化祭がやってくる。
赤澤 七海
赤澤 七海
……羽瀬くんとは
あれからどう?
木下あまね
木下あまね
それが……もうずっと
まともに話してない
赤澤 七海
赤澤 七海
そっか……
あの日以来、悪魔くんとは話せないまま文化祭準備期間に入ってしまった。

私はPR看板係で、学級展示係の悪魔くんとは作業場所が違うこともあり、ほとんど顔を会わせない。

───なのに。
あっという間に過ぎていく1日の中で、何度、悪魔くんを思い出しているだろう。
木下あまね
木下あまね
考えてみれば悪魔くんには
前から嫌われてたのに
木下あまね
木下あまね
調子に乗って
ますます嫌われちゃったかな
赤澤 七海
赤澤 七海
……そんなことない
羽瀬くんがあまねを嫌いなんて
許されないし、私が許さない!
赤澤 七海
赤澤 七海
それに!
伊織先輩も……
木下あまね
木下あまね
……ななちゃん、今
伊織先輩って言った?
木下あまね
木下あまね
2人、何か進展あった?
赤澤 七海
赤澤 七海
進展って……!
別に私たちそういう仲じゃ、
木下あまね
木下あまね
でもななちゃん
お兄ちゃんのこと好きでしょ?
ずっと聞きたくて、だけど聞けないままだったことをここに来て初めて口にすれば、ななちゃんの顔がみるみる赤く染まっていくのが分かる。
赤澤 七海
赤澤 七海
い、いつから気付いてた!?
木下あまね
木下あまね
ななちゃんが初めて家に遊びに来て
お兄ちゃんを紹介した時から、かな
赤澤 七海
赤澤 七海
それ、
……最初っからじゃん!
赤澤 七海
赤澤 七海
嘘……私、
自分で思ってるより分かりやすい?
赤くなったり、青くなったり、1人で百面相するななちゃんなんて初めて見たかもしれない。
木下あまね
木下あまね
私、お兄ちゃんは
ななちゃんのこと好きだと思う
赤澤 七海
赤澤 七海
ま、またそんな適当なこと!
木下あまね
木下あまね
ハハッ、ななちゃん可愛い〜
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねの方が
一億千万倍可愛い!
木下あまね
木下あまね
何それ!フフッ
ななちゃんの気持ちを確認して、その上で改めて思ったことは恋する女の子は、可愛いってこと。
***

───放課後
木下 伊織
木下 伊織
あーまーね、帰ろ!
文化祭準備期間中は、お兄ちゃんも放課後の勉強会がない。毎日、私を迎えに来るお兄ちゃんはルンルンでつい笑ってしまう。
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃん、今日は早いね
木下 伊織
木下 伊織
クラスの女子が
採寸させろってうるさくて
逃げてきちゃった
赤澤 七海
赤澤 七海
採寸……?
木下 伊織
木下 伊織
なんか、王子喫茶?
ってのやるらしくて
その衣装を作りたいんだと
私の隣からひょこっと顔を出したななちゃんを、お兄ちゃんは前みたいに邪魔者扱いしたりしない。

たったそれだけのことなのに、何だか2人の関係が前よりちょっと優しいものになった気がして嬉しくなる。
赤澤 七海
赤澤 七海
王子喫茶……って
似合いそう
木下あまね
木下あまね
やっぱりみんな喫茶系なのかな?
うちのクラスは執事喫茶だし
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃん
王子様似合いそうだね
木下 伊織
木下 伊織
できれば当日も
逃げ切りたいんだけど
木下あまね
木下あまね
えー、遊びに行くよ?
ね!ななちゃんっ
赤澤 七海
赤澤 七海
まぁ、どうせ全部のクラス
回るつもりだし……ね
木下 伊織
木下 伊織
あまねは絶対来ないで
木下あまね
木下あまね
えぇ!どうして?
お兄ちゃんの王子姿見たいよ
木下 伊織
木下 伊織
ダーメ!俺の可愛いあまねを
俺のクラスの害虫たちに
晒すわけにはいかない!絶対!
何やらお兄ちゃんの心配性スイッチが入ってしまったらしい。

そこまで頑なに拒まれると、ちょっぴり寂しいけど。仕方ない……写真くらいは一緒に撮ってくれるといいな。
赤澤 七海
赤澤 七海
それって……
木下あまね
木下あまね
え?
赤澤 七海
赤澤 七海
私1人なら行ってもいい
ってことですよね……?
語尾につれて聞き取れないほどか細くなるななちゃんの言葉に、隣でお兄ちゃんがクスッと笑った。
木下 伊織
木下 伊織
いいんじゃない?
赤澤 七海
赤澤 七海
っ、!あ、でもそれって
つまり私は害虫に晒しても問題ないってことか
赤澤 七海
赤澤 七海
それはそれで、複雑
喜んだ顔をしたすぐ後に、落ち込んだ様子を見せるななちゃんはいつになく忙しい。

だけど、隣でななちゃんを見つめるお兄ちゃんは、終始楽しそうに口元を緩めている。
木下 伊織
木下 伊織
わざわざ赤澤を口説く
物好きもいないだろうし
赤澤 七海
赤澤 七海
……な、私だって!
これでも去年の文化祭は
10人以上にナンパされたんですから
木下あまね
木下あまね
そうそう!先輩に同級生、
それに他校の男子からも
ななちゃんすごい人気で……!
木下あまね
木下あまね
大変だったんだよね〜去年
木下 伊織
木下 伊織
……へぇ?今年は何人に
声かけられるか楽しみだね
赤澤 七海
赤澤 七海
完全にバカにされてる……
木下 伊織
木下 伊織
まぁ、でも……
もししつこい奴とか現れたら
木下 伊織
木下 伊織
「木下伊織と付き合ってます」
赤澤 七海
赤澤 七海
……っ!?
木下あまね
木下あまね
……!?
木下 伊織
木下 伊織
校内なら多分これで
害虫避けできるんじゃない?
……お兄ちゃんの楽しそうな声に、ななちゃんはキョトン顔。正直、私も驚いてる。

つまり、お兄ちゃんはななちゃんに変な虫がつくのも嫌だってことだよね?自分の名前を使ってでも、ななちゃんを守りたいってことだよね!?
赤澤 七海
赤澤 七海
た、他校生だったら……?
木下 伊織
木下 伊織
……呼べば?
木下 伊織
木下 伊織
手ぇ空いてたら
駆けつけてやらない事もない
どうしよう、ニヤニヤが止まらない。
赤澤 七海
赤澤 七海
連絡先、知りませんし
木下 伊織
木下 伊織
ま、心配するだけ無駄だよ
どうせナンパなんてされないから
赤澤 七海
赤澤 七海
……これは、何としても
ナンパされないと
木下 伊織
木下 伊織
は?……いいよ、
無駄にされなくて面倒くさいから
まさかお兄ちゃんとななちゃんにキュンキュンさせられる日が来るなんて、夢にも思ってなかった。
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃんがななちゃん守るとこ
私もみたいなぁ〜
木下 伊織
木下 伊織
あまね、勘違いしてる
守るなんて一言も言ってないからね
赤澤 七海
赤澤 七海
私だって、守ってくれなんて
頼んでませんからね
木下あまね
木下あまね
ふふ、2人って……似てるよね
嬉しそうなななちゃんと、満足気なお兄ちゃん。

いいなぁ。好きな人が近くにいて、些細なことで笑い合えるってどれだけ幸せだろう。

突然ゼロに戻された悪魔くんとの距離に、苦手だったはずなのに、いつの間にか悪魔くんに恋をしているんだと気付かされてしまった。

どうしたらいいだろう。
……好きな人に嫌われてるって、すごく辛い。

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