残暑が遠のいて、ワイシャツの上にカーディガンを羽織る生徒が増えた。
季節はどんどん秋らしさを深めて、気付けばもうすぐ文化祭がやってくる。
あの日以来、悪魔くんとは話せないまま文化祭準備期間に入ってしまった。
私はPR看板係で、学級展示係の悪魔くんとは作業場所が違うこともあり、ほとんど顔を会わせない。
───なのに。
あっという間に過ぎていく1日の中で、何度、悪魔くんを思い出しているだろう。
ずっと聞きたくて、だけど聞けないままだったことをここに来て初めて口にすれば、ななちゃんの顔がみるみる赤く染まっていくのが分かる。
赤くなったり、青くなったり、1人で百面相するななちゃんなんて初めて見たかもしれない。
ななちゃんの気持ちを確認して、その上で改めて思ったことは恋する女の子は、可愛いってこと。
***
───放課後
文化祭準備期間中は、お兄ちゃんも放課後の勉強会がない。毎日、私を迎えに来るお兄ちゃんはルンルンでつい笑ってしまう。
私の隣からひょこっと顔を出したななちゃんを、お兄ちゃんは前みたいに邪魔者扱いしたりしない。
たったそれだけのことなのに、何だか2人の関係が前よりちょっと優しいものになった気がして嬉しくなる。
何やらお兄ちゃんの心配性スイッチが入ってしまったらしい。
そこまで頑なに拒まれると、ちょっぴり寂しいけど。仕方ない……写真くらいは一緒に撮ってくれるといいな。
語尾につれて聞き取れないほどか細くなるななちゃんの言葉に、隣でお兄ちゃんがクスッと笑った。
喜んだ顔をしたすぐ後に、落ち込んだ様子を見せるななちゃんはいつになく忙しい。
だけど、隣でななちゃんを見つめるお兄ちゃんは、終始楽しそうに口元を緩めている。
……お兄ちゃんの楽しそうな声に、ななちゃんはキョトン顔。正直、私も驚いてる。
つまり、お兄ちゃんはななちゃんに変な虫がつくのも嫌だってことだよね?自分の名前を使ってでも、ななちゃんを守りたいってことだよね!?
どうしよう、ニヤニヤが止まらない。
まさかお兄ちゃんとななちゃんにキュンキュンさせられる日が来るなんて、夢にも思ってなかった。
嬉しそうなななちゃんと、満足気なお兄ちゃん。
いいなぁ。好きな人が近くにいて、些細なことで笑い合えるってどれだけ幸せだろう。
突然ゼロに戻された悪魔くんとの距離に、苦手だったはずなのに、いつの間にか悪魔くんに恋をしているんだと気付かされてしまった。
どうしたらいいだろう。
……好きな人に嫌われてるって、すごく辛い。