第3話

調理実習でお礼の気持ちを伝えます
───朝 登校中
木下 伊織
木下 伊織
は!?調理実習!?
木下あまね
木下あまね
うん!
今日はカップケーキ作るんだって
楽しみだなぁ〜
木下 伊織
木下 伊織
調理実習……
あまねに危険をもたらすクソ行事
木下あまね
木下あまね
……お兄ちゃん?話聞いてる?
木下 伊織
木下 伊織
あ、うん……火とか包丁とか心配だなぁ
あまね苦手なんだし周りの害虫を盾に使って
くれぐれもケガには注意しないと
昔から過保護で心配性なお兄ちゃんは私が火を使うことや包丁を持つことに猛反対。
その結果、中々料理をする機会もなく……。

私は少しばかり……料理が苦手に育ってしまった。
1年の頃の調理実習では、ななちゃんが青ざめる代物をいくつも生み出して来た。
木下あまね
木下あまね
大丈夫、今日の調理実習も
ななちゃんと同じ班だから!
木下 伊織
木下 伊織
またアイツかよ
分かった!
その調理実習、兄ちゃんも参加、
赤澤 七海
赤澤 七海
出来ませんから
木下あまね
木下あまね
あ、ななちゃん!
おはよう
赤澤 七海
赤澤 七海
おはよう、あまね〜♡
木下 伊織
木下 伊織
 ……お前はいつもどっから
湧いて出んだよ、アホ澤💢
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねをシスコン大天使から守るのも
あまね守護係の仕事なので!悪しからず
木下あまね
木下あまね
そうだ!お兄ちゃんの分も
ちゃーんと作るつもりだからね!
木下 伊織
木下 伊織
あまねの作ったカップケーキとか
俺以外の口には絶対に入れたくないなぁ
……楽しみにしてるね
木下あまね
木下あまね
お、お兄ちゃん……
木下 伊織
木下 伊織
とりあえず、
その調理実習……俺も
赤澤 七海
赤澤 七海
はい、大天使様の教室は
あちらになりま〜す、さよ〜なら〜
木下 伊織
木下 伊織
アホ澤、お前……💢
”俺以外の口には入れたくない”……か。
なんだか今、生まれて初めてお兄ちゃんに後ろめたさを感じている。
***

───調理実習
赤澤 七海
赤澤 七海
あまね、それ本気で言ってる!?
木下あまね
木下あまね
お願い、ななちゃんしか頼れなくて
……協力してくれないかな?
両手を顔の前で合わせてスリスリしながら、驚くななちゃんに必死のお願い。
赤澤 七海
赤澤 七海
か、可愛い……天使のお願い……
こんなの断れる人いる?いるわけない!
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねの頼みだもん、協力するよ!
木下あまね
木下あまね
ほんと!?
ななちゃんありがとう!大好き!
赤澤 七海
赤澤 七海
何この子、天使すぎて苦しい
大天使にバレたらヤバそうだけど……
天使の笑顔を絶やすわけにはいかない!
この間、捻挫した時に助けてくれた悪魔くんにカップケーキでお礼を伝えられたらいいな……なんて思ったんだけど。

1人じゃ上手くいくか不安だったんだ。
赤澤 七海
赤澤 七海
そうと決まれば、頑張って作ろう
木下あまね
木下あまね
えいえいおー!
***

───休み時間 廊下
手には調理実習で作ったカップケーキ。
ななちゃんの協力のおかげで、奇跡的に見た目はとっても綺麗に焼けた。

あまり得意じゃないデコレーションも、チョコペンを使って一生懸命仕上げて、個人的にはとっても可愛い自信作。
木下あまね
木下あまね
あの、悪魔くん!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
…………?
調理実習の時間もサボりで参加していなかった悪魔くんは、次の授業もサボるつもりらしい。

人通りの少ない空き教室前の廊下で悪魔くんを見かけて、慌てて呼び止めた。
木下あまね
木下あまね
あの……私の、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なんだよ
木下あまね
木下あまね
私の”はじめて”もらって下さい!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……っ、はぁ!?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
おまっ……、そう言うこと軽々しく!
つーか意味分かって、
木下あまね
木下あまね
軽々しくないよ?
だって、悪魔くんにもらって欲しいから
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……っ、
そのために、頑張って作ったんだもん。
ななちゃんに協力してもらっちゃったけど、”ありがとう”の気持ちはたくさん込めたんだよ。
木下あまね
木下あまね
はい、これ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……は?
木下あまね
木下あまね
調理実習で作ったカップケーキ!
木下あまね
木下あまね
私、自分が作ったものを
人にあげるのって初めてで……!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
”はじめて”……ってそういう意味かよ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……バッカ、紛らわしすぎだろ
木下あまね
木下あまね
え?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……んでもねぇよ
木下あまね
木下あまね
この間、足痛めた時に悪魔くんが
気付いてくれたのすごく嬉しかったから
木下あまね
木下あまね
……ありがとう、悪魔くん
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
普通、本人目の前にして
”悪魔くん”って呼ばねぇから
木下あまね
木下あまね
えっ、あ……そっか
木下あまね
木下あまね
そうだよね……!ご、ごめんね?
別に悪気があったわけじゃなくて
愛着があるんだよね”悪魔くん”って
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
俺なんかにカップケーキ作って
わざわざ探しに来るようなバカ
……お前ぐらいだぞ
木下あまね
木下あまね
……あっ、
私の手からスっとカップケーキを取り上げて、自信作のそれをまじまじ見つめる悪魔くん。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
ハート……
木下あまね
木下あまね
可愛いでしょ?
ピンクのチョコペンがあったから
いっぱいハート描いてみたの
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
お前、このハート……
木下あまね
木下あまね
あ!心配しないでね?
ハートにはこれっぽっちも
意味なんてないから!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……ねぇのかよ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
はぁ……早く教室戻んねぇと
もうすぐ鐘なるぞ
木下あまね
木下あまね
えっ?
……嘘、もうそんな時間!?
本当は味の感想だって聞きたかったけど、授業に遅れるわけには行かないし……
木下あまね
木下あまね
この間は本当にありがとう
それじゃ、また後でね!
くるりと方向転換して、私は教室への1歩を踏みだした。

そんな私に───。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……あまね
木下あまね
木下あまね
っ!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
サンキュ
初めて悪魔くんの声で聞こえた、私の名前。

慌てて振り向いた時にはもう、悪魔くんの背中しか見えなかったけれど。

胸に甘酸っぱいような喜びが広がっていく。
***

───放課後
木下あまね
木下あまね
はい、これお兄ちゃんの
木下 伊織
木下 伊織
これ、あまねが作ったの!?
木下あまね
木下あまね
ちょっと手伝ってもらったけど
どう?上手に焼けたでしょ?
木下 伊織
木下 伊織
世界一!いや、銀河一上出来!
もったいなくて……食えねぇ……
ケガもしてないし、神様ありがとうございます!
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃんったら褒めすぎだよ
あ!そうだ……はい!
木下 伊織
木下 伊織
ん?このカップケーキも
あまねが作ったの?
木下あまね
木下あまね
ううん!そっちはななちゃんから
木下 伊織
木下 伊織
……は?
なんで、俺に?
木下あまね
木下あまね
『シスコンが治る毒盛りました』って
木下 伊織
木下 伊織
あの女……まじで💢
ななちゃんとお兄ちゃんってなんだかんだ仲良しだから、そんな2人が私には微笑ましかったりする。

……悪魔くん、カップケーキ食べてくれたかな?
悪魔くんにカップケーキをあげたこと、お兄ちゃんに1つ、秘密ができてしまった。