───昼休み
今日は快晴。
こんな日は外で食べよう!と、中庭のベンチでななちゃんとお弁当を頬張っている。
あの図書館でお兄ちゃんと悪魔くんがバッタリ遭遇してしまった日から数日が経った。
お兄ちゃんの心配性には磨きがかかって、私と悪魔くんが近くにいることを一切許さない。
『悪趣味ロリコンは100メートル先から見えただけでも吐き気がする』と頑なに悪魔くんを毛嫌いするお兄ちゃんと、『やることが陰湿なんだよ、根性腐ってやがる』と眉間にシワをよせてお兄ちゃんにガン飛ばす悪魔くん。
……確かに、心配性すぎるなって感じることは多々あるど。そのどれもが私を思ってのことだし、私がドジばかりだから、お兄ちゃんに心配かけちゃってるんだと思ってた。
ななちゃんの言う”シスコン大天使”っていうのも、今まで冗談半分だと思ってたけど、もしかして本気?
真剣な顔で少し遠くを見つめながら、ななちゃんが小さく「よし」と気合を入れた。
私が首を傾げて見せれば、
そう呟いてななちゃんはフワッと愛らしく笑った。
なんの事やらサッパリ分からないけど、ななちゃんに任せておけば大丈夫。
そう思いながら、私も笑い返した。
きっと、ななちゃんならお兄ちゃんのことも私のことも、プラスの道に導いてくれるはずだから。
***
あと15分で昼休みが終わろうとしている。
そんな中、私は1人、中庭にやって来た。
お弁当を食べ終えてななちゃんと教室に戻った私は、スマホを中庭のベンチに忘れてきてしまったことに気づいて青ざめた。
優しいななちゃんは『取りに行くの付き合うよ』って言ってくれたけど、昼休みがもうじき終わりを迎えるこの時間に、わざわざ付き合せるのは申し訳なくて、遠慮してしまった。
ふと、聞こえてきたネコの声に辺りを見渡す。
段々と近づくネコの声。
と、ベンチから少し離れた場所に寝転がる人を見つけて驚きから思わず「わ、」と声が漏れた。
よく見れば、寝転がっているのは同じクラスの江本 夏樹くんだった。
とにかく人といるのをあまり見かけない、人を寄せつけない雰囲気の江本くんは、普段から周りに興味なし!って感じで、少し冷たい印象。
だけど───。
今、目の前にいるのは……猫とジャレながらおやつをあげて、おまけに楽しそうに笑う江本くん。
ど、どうでもいいって……酷い。
猫に笑いかけてる江本くんは、とっても優しいのに、こうして話すとやっぱりいつもの江本くんだ。
江本くんの笑顔を思い浮かべながら、自然とほころぶ顔。江本くんかあんな優しい顔するって知ったら、きっとみんなからの印象も変わると思う。
お腹の上に乗せていた猫を優しく地面に下ろして、寝転がっていた江本くんが体を起こした。
そのままヒョイッと立ち上がって、軽く体を払う。
私のすぐ側まで来た江本くんは、さっきまで猫を愛でていた手で、私の制服のリボンに人差し指を引っ掛けてグイッと軽く引き寄せた。
まるで感情がないみたいに、冷たい瞳。
ニッと嫌な笑みを浮かべて、何やら企んでいるらしい江本くんに、背中を冷や汗が伝う。
───拝啓親愛なるななちゃん。
私、大変なことになってしまいました。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。