第9話

大魔王様のおもちゃはごめんです
10,980
2020/08/09 12:29
───昼休み

今日は快晴。
こんな日は外で食べよう!と、中庭のベンチでななちゃんとお弁当を頬張っている。
赤澤 七海
赤澤 七海
にしても、羽瀬くんvs大天使は
いつ終息するのかな……?
木下あまね
木下あまね
そもそも、なんで戦ってるんだろ
赤澤 七海
赤澤 七海
え?それは……
木下あまね
木下あまね
ななちゃん何か知ってる?
赤澤 七海
赤澤 七海
ううん!知らない!
……なんでだろうね?
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねを巡って……なんて
口が裂けても言えない!!
あの図書館でお兄ちゃんと悪魔くんがバッタリ遭遇してしまった日から数日が経った。

お兄ちゃんの心配性には磨きがかかって、私と悪魔くんが近くにいることを一切許さない。

『悪趣味ロリコンは100メートル先から見えただけでも吐き気がする』と頑なに悪魔くんを毛嫌いするお兄ちゃんと、『やることが陰湿なんだよ、根性腐ってやがる』と眉間にシワをよせてお兄ちゃんにガン飛ばす悪魔くん。
木下あまね
木下あまね
あの2人、初対面のときから
ずーっとあの調子なんだよ
赤澤 七海
赤澤 七海
まぁ、男には色々あるのかもね
……女には分からない何かが
木下あまね
木下あまね
そういうものかなぁ?
赤澤 七海
赤澤 七海
……でもやっぱ、シスコン大天使の
あまね愛はちょっと異常かもね
木下あまね
木下あまね
そうなの?
昔からあんな感じだったし
大事に思われてるんだとばかり
……確かに、心配性すぎるなって感じることは多々あるど。そのどれもが私を思ってのことだし、私がドジばかりだから、お兄ちゃんに心配かけちゃってるんだと思ってた。

ななちゃんの言う”シスコン大天使”っていうのも、今まで冗談半分だと思ってたけど、もしかして本気?
赤澤 七海
赤澤 七海
あ!違う違う!!
もちろんあまねのことをすっごく
大事に思ってるからこそだと思うよ?
赤澤 七海
赤澤 七海
でも、なんて言うか……
私もあまねのことを大好きだし
だからこそあまねの幸せを願ってる
木下あまね
木下あまね
……ななちゃん
赤澤 七海
赤澤 七海
だけど、大天使は
あまねが可愛くて大事すぎて
手放すことが出来なくなってる
赤澤 七海
赤澤 七海
それは、あまねにとっても
大天使にとっても
プラスにはならないと思うの
木下あまね
木下あまね
……手放すことが、出来なくなってる
真剣な顔で少し遠くを見つめながら、ななちゃんが小さく「よし」と気合を入れた。

私が首を傾げて見せれば、
赤澤 七海
赤澤 七海
……任せて。
大天使の説得は私が引き受ける
木下あまね
木下あまね
…………?
そう呟いてななちゃんはフワッと愛らしく笑った。
なんの事やらサッパリ分からないけど、ななちゃんに任せておけば大丈夫。

そう思いながら、私も笑い返した。

きっと、ななちゃんならお兄ちゃんのことも私のことも、プラスの道に導いてくれるはずだから。
***


あと15分で昼休みが終わろうとしている。
そんな中、私は1人、中庭にやって来た。
木下あまね
木下あまね
あ!あった〜……よかった
お弁当を食べ終えてななちゃんと教室に戻った私は、スマホを中庭のベンチに忘れてきてしまったことに気づいて青ざめた。

優しいななちゃんは『取りに行くの付き合うよ』って言ってくれたけど、昼休みがもうじき終わりを迎えるこの時間に、わざわざ付き合せるのは申し訳なくて、遠慮してしまった。
木下あまね
木下あまね
ん……?
ふと、聞こえてきたネコの声に辺りを見渡す。
木下あまね
木下あまね
どこだろ?……こっち?
おーい、ネコさんどこだい?
段々と近づくネコの声。
と、ベンチから少し離れた場所に寝転がる人を見つけて驚きから思わず「わ、」と声が漏れた。
木下あまね
木下あまね
……あれ?江本くん?
江本 夏樹
江本 夏樹
…………
よく見れば、寝転がっているのは同じクラスの江本 夏樹えもと なつきくんだった。

とにかく人といるのをあまり見かけない、人を寄せつけない雰囲気の江本くんは、普段から周りに興味なし!って感じで、少し冷たい印象。

だけど───。
江本 夏樹
江本 夏樹
……フッ、欲しがりだなお前
江本 夏樹
江本 夏樹
分かったからちょっと待て
コラ……ったく、美味いか?
今、目の前にいるのは……猫とジャレながらおやつをあげて、おまけに楽しそうに笑う江本くん。
木下あまね
木下あまね
……猫、好きなんだ?
可愛いよね〜
江本 夏樹
江本 夏樹
───!!
木下あまね
木下あまね
あ、ごめん!
びっくりさせちゃった?
江本 夏樹
江本 夏樹
……なんだよ、お前
木下あまね
木下あまね
私、木下あまねって言って
実は江本くんと同じクラスなんだけど
江本 夏樹
江本 夏樹
んなことはどーでもいい
……用がねぇなら戻れよ
ど、どうでもいいって……酷い。
猫に笑いかけてる江本くんは、とっても優しいのに、こうして話すとやっぱりいつもの江本くんだ。
木下あまね
木下あまね
……いつもそうやって
笑ってたらいいのに
江本 夏樹
江本 夏樹
……は?
木下あまね
木下あまね
江本くん、笑ってた方がいいよ!
猫さんに笑いかける江本くん
すごい優しい顔してて驚いちゃった
江本くんの笑顔を思い浮かべながら、自然とほころぶ顔。江本くんかあんな優しい顔するって知ったら、きっとみんなからの印象も変わると思う。
江本 夏樹
江本 夏樹
……お前のそれって、素なわけ?
木下あまね
木下あまね
……え?素?
お腹の上に乗せていた猫を優しく地面に下ろして、寝転がっていた江本くんが体を起こした。

そのままヒョイッと立ち上がって、軽く体を払う。

私のすぐ側まで来た江本くんは、さっきまで猫を愛でていた手で、私の制服のリボンに人差し指を引っ掛けてグイッと軽く引き寄せた。
木下あまね
木下あまね
……なっ!?
江本 夏樹
江本 夏樹
いつ誰に対しても
ヘラヘラ笑ってるお前見てると
江本 夏樹
江本 夏樹
無性に泣かせたくなる
木下あまね
木下あまね
え、もと……くん
まるで感情がないみたいに、冷たい瞳。
江本 夏樹
江本 夏樹
なら、お前が笑わせてみろよ
江本 夏樹
江本 夏樹
暇つぶしにちょうどいい……
俺のおもちゃにしてやるよ
ニッと嫌な笑みを浮かべて、何やら企んでいるらしい江本くんに、背中を冷や汗が伝う。


───拝啓親愛なるななちゃん。
私、大変なことになってしまいました。

プリ小説オーディオドラマ